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2012年01月01日 00:00
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[緊急対談]金正日死後 いかにすべきか
憤怒の組織化で戦え 「消極的反逆」繰り返す李大統領

 2011年末に飛び込んできた金正日死去のニュース。それを受けて韓国が今後とるべき策は何なのか、元『月刊朝鮮』編集長の趙甲済氏と、本紙論説委員の洪熒氏がソウルで緊急対談を行った。金正日の死の捉え方や李明博政権の「消極的反逆」、そして韓国が持つ希望についても触れた。

趙甲済(チョ カプチェ) 45年、埼玉県生まれ。釜山水産大卒。朝鮮日報記者から月刊朝鮮編集長などを経て現在chogabje.com代表。

洪熒(ホン ヒョン) 48年、ソウル生まれ。韓国陸軍士官学校卒。01年まで在日韓国大使館公使など歴任。現在、本紙論説委員。

好機を逃しつつある韓国

  まず金正日の死をどう捉えるかについての整理が必要だと思います。独裁者だった金正日の死は韓国にとって「天佑神助」なのに、ほとんどのメディアは歴史的意味を伝えていない。彼らの北韓を見る姿勢は基本的に病んでいます。いわゆる「北韓学学者」らがまき散らした「内在的接近法」に即して権力承継問題を展望するだけで、独裁体制をいかに処理するかという点には触れません。
  金正日の死は韓国が韓半島の状況を主導し、攻勢に出られるきっかけになると思います。韓国の国家指導部が確かな意志を持ってこの歴史的機会を活用すれば、韓国に絶対に有利な状況が生まれます。金日成と金正日は悪辣かつ老練な戦術と戦略で、1990年代以後核兵器と韓国内の従北勢力を活用して韓国を揺さぶり、親北政権を作ったりして南北関係を主導した側面があります。しかし、金正恩という28歳の若者は権力基盤を固める過程で挑戦を受けるでしょう。写真を見れば金正日と一緒に立っている金正恩は力があるように見えますが、金正日なき金正恩が権力闘争で老獪な70、80代の長老たちの間に立っているのが場違いに見えます。実際の状況もそうでしょう。
  しかし金正日死後という絶好の機会を韓国は逃しつつあるように見受けますね。
  金正日に数えきれないほど煮え湯を飲まされてきた韓国で、「独裁者金正日が死んだ」という見出しの新聞やテレビ放送はありません。従北勢力からの批判を恐れているためです。こうした弱気の報道は、韓国メディアの実情を示しているだけでなく、従北勢力の自画像といえるでしょう。韓国に有利な突破口はできましたが、この突破口を拡大できるかどうかは国家指導部と国民の選択によると思います。
  李明博政権の危機管理と歴史認識を見ると、自国の歴史に対する確信さえ見えません。この点をどう見ますか。
  政権に国政運営の基本マニュアルがあるのかどうかさえ疑わしいです。1994年7月の金日成死亡発表時、金泳三大統領は金日成が韓民族の歴史に及ぼした害悪には言及せず、南北首脳会談が行われなくなったことが惜しまれると話しました。今回も李明博大統領は、金正日死亡を歴史的に評価し、国家の進路を示す演説をしませんでした。驚くべきことです。特に統一部長官が読んだ政府談話文は、北韓を主権国家であるように捉えて憲法に違反しただけでなく、金正日が行った幾多のテロや犯罪に一つも歴史的評価を下さず、金正日の側近とその徒党に「慰労の意を伝える」としています。道徳性も愛国心も麻痺して歴史認識もない李明博政権内の人々が金正日後の状況を主導的に攻勢に転じられるか、根本から疑わざるをえません。
  政府談話文は北韓住民に、「あなたたちをよく治めた金氏王朝の王が死んだのは残念だ」という意味です。人間としてありえない行為であり、李明博政権の水準が政府談話文一つもまともに作れない未熟さであることを示しています。金正日死亡の報道が出て、戦争が起こるのではないかと若者が恐れたといいますが、これは政権の問題であり、同時に教育の問題ではないかと思われます。
  全国民が恐れることではありませんが、国家指導部が悪質なメディアと世論に追従するようになると、政府談話さえまるでヒトラーの死にユダヤ人が弔意を示すような、正気でない文書になります。「北韓が哀悼期間であることを勘案して前線地域のクリスマスツリーのライトアップなどを慎むようにする」という話は、政府が北韓の脅迫に屈服して宗教の自由を制限したものです。言論、政界、学界などにいる有識者の中には従北勢力と中国と北韓の機嫌を伺う「奴隷根性」が染み付いた者が多い。政府の姿勢は法治と教育に影響を与え、善悪の分別さえ台無しにしました。これからも継続して国民にその過ちを知らせなければなりません。

従北勢力に水差した死

  私たちは現在、野蛮な独裁政権と戦争をしています。戦争は敵の指揮部を破壊することですが、その敵の大将が死んだことを慰撫し、敵将が死んだことを恐れるのは異常なことです。
  決定的な瞬間に行われる大統領の演説は、歴史の流れを変えるものです。金正日の死に対して正確に言及し、韓国を主語として北韓を目的語にする語法と発想をすれば、その「言葉の力」で南北関係における主導権を取れたはずなのに、李明博大統領は(天安艦爆沈と延坪島砲撃に次ぐ)3回目の歴史的演説のチャンスを逃そうとしています。
  罪は2種類あります。禁止されたことをする罪と、当然すべきことをしない罪です。国民に範を示すべき李明博大統領は、2つの罪を同時に作っていると思います。必ずすべきことをしないのは「消極的反逆」といえます。李明博政権の残任期はもはや、危機管理の対象になっているのです。
  李大統領の行動は従北左派の機嫌を取って退任後の安全を図っているのではないかと疑わしくなるほどです。従北政権の誕生を助けるような行動をするのではないかという大きな憂慮です。4年間におよぶ李政権の法執行放棄により、韓国社会では従北左派勢力が大きくなりました。これは韓国の政治地形を従北化させ、社会主義に進むとても危ないことです。この状況で金正日は死にました。歴史の神が、従北勢力が頂点に達した瞬間、水を差したのです。大統領はこの歴史的意義をつかむことができず、従北勢力に退路を開いてやっているように見えます。
  李大統領が任期序盤から盧武鉉前大統領の国民葬、金大中元大統領に国葬をしたことが、従北左派に「6・15精神の継承」を叫ばせるようになった背景です。
  韓国を、極端に言えば北の指令を受ける存在にしたことは、李明博政権の罪でしょう。ただ、従北勢力の求心的存在だった金正日が死んだことで従北勢力は結局弱体化するはずです。それを加速させることが課題です。
  李明博政権は4年間、左翼政権が作った悪法を一つも改廃できませんでした。リンカーンは150年前に奴隷解放のために戦争までしましたが、韓国は2200万人の同族解放のために戦争しようというのではなく、61年間の戦争を終結させて同族を救出しようというはずです。
  2012年の選挙で従北政権が誕生する可能性があるのに、私たちは個人の立場で戦わなければなりません。李明博政権と従北勢力に対する怒りを組織化し、投票所に向かってもらえるように執筆や講演活動をしなければなりません。韓国は国民国家になって60年ほどにしかならないが、60年とはすごいことです。韓国の底力は言論の自由、選挙の自由、私有財産権の保障から生まれます。これらが保障されるかぎり、韓国は前に進むと楽観しています。在日韓国人も反逆と従北に対する「憤怒の組織化」と「投票率の極大化」により従北反逆勢力と戦わなければなりません。
  韓国は人口5000万人以上で1人当たりのGDPが2万ドルを超える7カ国に入ります。このような発展を、韓半島史上最長で今も続く過酷な戦争の中で成し遂げたのです。63年続く戦争を終わらせて統一を果たせば、もう一度飛躍が可能です。
  李明博政権は情報収集力が問題ではなく、情報使用能力に問題があると思います。国家指導部と軍統帥権者に戦争の意志がなければ最新兵器も鉄くずになります。韓米同盟はありがたい存在ですが、全国民が安保に無責任になったのは否定的側面です。77年に駐韓米軍が撤収していたら、経済は遅れても自主国防体制はできていたのかもしれません。

過小評価できない社会の力

  韓国は安保でも韓国型モデルが作れるはずです。韓国が南北対決で常にやられる一方だったのは、共産圏全体との対決を避けようとしていた米国が、韓国に我慢を強いたためです。そんな状況に適応してきた世代の代表が李大統領です。軍首脳部も同じです。
  作家のジョージ・オーウェルが言った「1+1=2と言える国は救済される」という言葉を信じます。すなわち、言論の自由がある国は過ちを犯しても自浄能力が機能します。結局は「真実と虚偽の対決」なのですから、韓国社会の力を過小評価してはいけません。韓国は社会的に緊張が持続する構造になっています。金正日が死んだことで緊張が生じ、従北勢力が跋ばっ扈こすればまた緊張が生じます。資本主義社会は「永久緊張、緊張の永続化」を保障しているようなものです。
  2012年には選挙がありますが、その結果にかかわらず韓国に希望はありますね。
  韓国社会を診断する時、言葉や文章で表現できない分野が多く、実際より悲観的に見えることが多いですね。私は人の生命を中心に評価しなければならないと思っています。韓国の平均寿命は81歳。米国より1歳多く、最長寿国に近づいています。殺人事件や事故も増加せず、安全な国といえます。従北勢力の戦略は、以前は「民主勢力」、「改革勢力」と偽装することでしたが、今は「福祉勢力」と偽装することです。無償福祉は社会主義をやるということです。彼らの主張の核心は国家財政を破綻させる「無償医療」ですが、税金が国防費と同額の40ウォンも追加で必要な点には黙っています。金日成と金正日は同族700万人を殺し、北韓住民の平均寿命を65歳にし、成人男性の身長の平均値を160センチにしました。韓国人を劣等化させ、最も知能の高い民族に最悪の困窮を強いた金正日は、人間の命をかじるヒトデです。命の属性は自由であるのに、北韓はその自由を徹底して抑圧してきました。韓国の将来を悲観しない理由は、従北化の渦中でも人間の生命を尊重する心は失われていないからです。

「混乱おきないで…」 韓日拉致被害者ら

飯塚繁雄・拉致被害者家族会代表
 拉致の張本人がいなくなったので期待も不安もあるが、当初から亡くなった時が一つのチャンスとも捉えていた。金正日は、「拉致問題は解決済み」の姿勢をかたくなに維持していた。しかし、死亡により、別のチャンスが出てきたとも考えている。
西岡力・救う会全国協議会会長
 拉致被害者救出はチャンスと危機が並行する緊迫した状況を迎える。後継政権が安定的に成立するなら、その政権が過去の金正日の責任を認めて拉致被害者を返すという選択をする可能性は十分ありうる。
 一方で、混乱事態が発生する可能性もある。その場合、被害者の安全が脅かされる危険もある。日本政府は北朝鮮内部の動静に関する情報と、拉致被害者の現在の状況に関する情報を収集し分析するとともに、米国、韓国との緊密な連携協力に努め、全力で被害者の安全確保と救出にとりくんでいただきたい。
NO FENCE
 当会として、この機会に、以下のことを訴えたい。(1)北朝鮮の民主化、人権の回復は、強制収容所の廃絶から始まる、(2)強制収容所の廃絶から着手することは難しいことではない、(3)金正日の死は強制収容所廃絶にとって有利な事態であるが、世界の認識が遅れると、収容者(20万人以上)が証拠隠滅のために虐殺される恐れがある。
鄭進・在日本大韓民国民団中央本部団長
 この突然の死で北内部が不要な混乱に陥らないよう望むとともに、韓半島の平和と安定に動揺がみじんもないことを強く願う。韓国民団は、事態の推移を注視しながら、一日も早い北韓の政情安定を期待するとともに、人民が平穏、幸福に暮らせる民主的な国づくりへと転換するよう期待する。
タイ人拉致被害者アノーチャー・パンチョイさんの甥バンチョン・パンチョイさん
 金正恩がどれだけ権力を掌握できるのかは不透明だが、新指導部が新体制を築く中で、日本政府や韓国政府のこれまでの拉致解決の働きかけが功を奏する局面がまもなく来るはずだ。この機にタイ政府が再度タイ人拉致解決に真摯に取り組むことを強く望む。
NK知識人連帯
 少なからぬ北韓住民は、金正日死亡の事実より今後の北韓の変化に対して大きな期待を持っているが、金正日以外にも既得権を持つ人がいるのだから変化を期待するのも難しい。しかし希望を捨てるのは早い。金正恩の代わりに権力を掌握すれば、誰もが住民の信頼を得るため「金氏王朝」を否定する新しい政策を推進すると思われるからだ。
崔成龍・拉北者家族会代表
 北韓内部で権力争いが起き、混乱が生じないか心配だ。しかし、拉致問題に対する関心が疎かになってはいけない。

2012-01-01 2面
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