全羅北道は、長い歴史と伝統を誇る、韓国を代表する文化と芸術の中心地だ。道都の全州市は朝鮮王朝の発祥地でもあり、市内にある全州韓屋村は、韓国で唯一都市の中心にある伝統家屋の集落だ。また、海岸部の群山市、金堤市、扶安市の河口一帯に造成されているセマングム防潮堤がほぼ完成し、来年からは干拓地の内部開発が本格的に始まる。
セマングムを中心に北東アジア経済の中心地として期待されている全羅北道。日本ではあまり知られていないが、伝統文化が息づく韓国と、未来の韓国に出会えるところだ。
全羅北道は韓半島の南西部、黄海に面しソウルから南に約300キロの位置にある。
海・山・川そして平野からもたらされる豊かな食材を用いた郷土料理、全州ビビンバやマッコリ、モヤシスープなどが特に有名で、「韓国の台所」と呼ばれている。
全羅北道は日本の鹿児島県、石川県と友好協力関係を結び、道都である全州市は石川県の金沢市と姉妹都市提携をしている。街づくりで韓国と日本の地方間での交流が活発な印象を受けた。
伝統文化の観光都市を掲げる道都・全州市には、ソウルから高速バスで2時間30分、釜山からは3時間30分ほどで行ける。2011年にはKTX全州駅が開通する予定で、西部圏観光の中心地として注目されている。
全州市の見所は、やはり全州韓屋村だ。国内最大規模の伝統韓屋が市内の中心地にあり、朝鮮時代から近代、現代に至るまでの建築物が共存している。全州韓屋村には後百済と朝鮮時代、近代文化遺跡地などもすべて集まっている。
韓屋村周辺を歩いて見てまわるだけで、千年古都と呼ばれる全州の歴史を一望できる。半日か1日あれば、十分にまわれるところも魅力的だ。
全羅北道は伝統文化の観光都市づくりだけではなく、大規模な産業振興にも力を入れ、北東アジア経済の中心地を目指している。セマングム開発事業がそれだ。
セマングム(新万金)の「万金」は、周辺の地名である「万頃」(マンギョン)と「金堤」(キムジェ)の頭文字を取った合成地名だ。1991年11月の着工から約20年をかけて群山市と扶安郡を結ぶ、世界最長33キロメートルの防潮堤が今年ほぼ完成した。
セマングム防潮堤には干拓事業の推進状況を紹介する展示館や展望台がある。旧群山群島で最大の新侍島に立つ展望台から眺める防潮堤は壮観の一言。今後、国内外から多くの観光客が訪れると期待されている。
来年からは本格的に干拓地の内部開発が行われる。新しい港湾や外国人専用の産業団地も造成される。観光と産業の中心として期待されているセマングムは、文字どおり「新たな万の金」を呼ぶことになるだろう。
セマングム 世界一長い防湖堤
全羅北道・群山市と扶安郡を結ぶ、全長33キロメートルの世界で一番長いセマングム(新万金)防潮堤の外郭工事が今年ほぼ完成した。来年からは本格的に内部開発が推進される予定だ。
道都の全州から車で約1時間。海岸部に姿を現そうとしている干拓地内部の埋め立て工事は現在、急ピッチで進められている状況だ。大型トラックが往来し、巨大クレーン車がフル稼働していた。防潮堤沿いの公園では芝を植える作業が進められていた。内部の開発はまだまだこれからといったところだ。
セマングムは群山市の南を流れる錦江と金堤市を流れる東津江の河口一帯に広がる干拓地だ。セマングムの総事業面積は4万100ヘクタール、そのうち干拓地が2万8300ヘクタール、淡水湖は1万1800ヘクタールとなる。その面積はソウル市の3分の2、シンガポールの2分の1に相当する。
セマングム開発事業は、1960年代から80年代に多発した干ばつや食糧不足、冷害などを背景に外国産コメの輸入が開始されたことをきっかけに、議論が本格化した。1989年に総合開発事業基本計画が確定し、1991年11月から着工。韓国政府は2020年までにセマングムを北東アジア経済の中心地に開発する計画だ。
日本の諫早湾干拓事業などの場合は、農業専用地として開発されている。しかし、セマングム干拓事業は農業専用地だけではなく、産業団地や観光団地などを含めた複合産業団地として開発されているのが特徴的だ。
干拓地内部には、先端産業団地をはじめ、新しい港湾・物流団地やFDI産業団地(外国人直接投資地域)などが造成される。新港湾の完成にあわせて、群山空港が国際空港に拡張される計画だ。来年上半期からは先端産業団地用地の分譲も予定されている。
かつての都があった全州の海岸部に新たに生まれる広大な干拓地には、全羅北道の夢と希望がつまっている。
(鄭重国) |