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2011年10月26日 00:00
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特集 昌徳宮月明り紀行(チャンドックン タルビッキヘン)
ソウルに残る最も美しい宮廷を歩く

 朝鮮時代の国王が住んだ豪壮な宮廷。一般人では絶対に足を踏み入れることができなかった禁断の聖域だ。王朝の時代が終わり、今では誰でも行ける観光名所になったが、夜に見物する機会はめったにない。「600年首都」ソウルのあちこちに残る朝鮮時代の古宮だが、中でも最も美しい景観を誇るのが昌徳宮だ。文化観光体育部の協力のもと「昌徳宮月明かり紀行」を体験した。(ソウル=李民晧)

夜、敦化門は開く 王が住んだ禁断の聖域へ
「青紗灯籠」を手に

当時の世界観が反映された芙蓉池

入り口近くに立つエンジュの大木

 満月が輝く秋の夜、昌徳宮はどんな姿を見せてくれるだろうか。午後7時、普段この時間には固く閉ざされる昌徳宮の正門「敦化門(トンファムン)」は大きく開かれていた。
 古宮の散歩に出かけた観覧客は、周囲を明るく照らす「青紗灯籠」(四角柱型の韓国式提灯)を手にとり、ゆっくり歩を進める。初めに目に飛び込んでくるのが高さ20メートルを超えるエンジュの大木。仄かな月明かりを受けて薄緑色の葉が明るく輝く。朝鮮時代の碩学である「集賢殿」の学者が、この木を見て心を空にしてから集賢殿に入っていったという逸話から「学者樹」とも呼ばれた。
 王だけが歩くことができた「御道」をしばらく歩くと、昌徳宮の正殿にあたる「仁政殿」がその謹厳な姿を現す。ライトアップされた宮殿の姿に目を奪われていると、「後ろを振り返ってください」というガイドの声がかかる。
 ちょうどそのとき到着した文化財専門家で、文化体育観光部長官を務める崔光植氏から直々に朝鮮王宮の解説を聞くことができた。
 「昌徳宮は韓国を代表する宮廷です。朝鮮後期からは国王が住む正規の宮として使われました。平地に建てる普通の建築物とは違い、この建物は丘陵と木々、池が自然と絶妙の調和を成しています。韓国固有の建築物を鑑賞する時に見逃してはならないポイントがあります。必ず借景を見なければならないということです。我が国の建築物は西洋のようにそれ自体の派手さは重視しません。建物内から外を眺めた時の景観が非常に芸術的です」

連子窓が特徴的な楽善斎(写真左)と、ライトアップされた正殿「仁政殿」(写真右)

 長官の言葉を聞いてすぐ後ろを振り返ると、驚くほど美しい光景が広がっていた。樹齢数百年の大木を用いて建てられた宮殿の回廊が見え、その先に遠く南山の「Nソウルタワー」が煌々と光を放ちながら立っていた。朝鮮時代の人々が、まるで21世紀にタワーが建てられることを見越していたかのように、過去と現在の建築物が一幅の絵画のように調和を成していた。観覧客はしきりにカメラのシャッターを切っていた。

文化体育観光部の崔光植長官

 次に向かったのは楽善斎。王が休息を取り、書を読んだ個人的な空間だ。大韓帝国の最後の皇太子である李イ垠グンと結婚した皇族、李方子(イバンジャ)が一生を終えた所でもある。「私は祖国も骨を埋める所も韓国」と思い、一生をすごしたという李方子の匂いが染み込んだ楽善斎には、ふとすると見逃してしまいそうな芸術作品がある。それは韓屋の連子窓で、窓ごとに異なる文様は数十種類に達する。
  宮の北方に向かってしばらく歩くと、後苑(裏庭)に出る。どこからか聞こえてくる琴の音が、秋の夜の風情を一層引き立てる。
 王室の図書館であり、学問研究も行われた奎章閣と閲覧室である宙合樓。その前の芙蓉池と、王が科挙合格者に酒を振る舞いながら祝った芙蓉亭が一カ所に集まっている。芙蓉池は、空は丸く地は四角いという宇宙観に基づいて作られ、四角形の池は地、中央の丸い島は空を象徴しているという。
 「昌徳宮月明かり紀行」の最後を飾るのが演慶堂だ。いつのまにか夜の宮廷散策は1時間20分を過ぎていた。秋の夜の冷たい風に手が冷えはじめた観覧客を察してか、昌徳宮側から暖かい柚子茶と梨茶、薬果ともちなどの間食が提供される。そして演慶堂前の広場に用意された公演場で、ふかふかの韓国式座布団に座る。
 朝鮮の第23代国王・純祖スンジョが宴会の時に楽しんだという王室の踊り「春鶯舞(チュンエンム)」が披露され、伝統楽器である大琴の名人が奏でる音が月明かりと調和して聞く者の琴線を刺激する。
 次いで軽妙な話術を誇る新世代の伝統歌手が現れ、韓国式声楽であるパンソリで昔話「鼈主簿伝(ピョルジュブジョン)」(すっぽん伝)の一節を歌う。最後は観覧客も参加するアリランメドレーが飾った。
 宮廷公演を満喫しながら空を眺めると、十五夜の月がかかり、幻想的な美を演出していた。九重宮闕(クジュングングォル、建物や塀により外部からの侵入を防ぐこと)の考えで植えられた木々の間から見える月を眺めるのも外せない昌徳宮の妙味だ。
 韓国を代表する古宮で得た月明かりとの遭遇。2時間あまりの夜間散策を終えた観覧客の表情は、限りない幸福感に満ちていた。「昌徳宮月明かり紀行」は、夜の見どころがあまりないという韓国観光の弱点を払拭する最高のツアーだった。韓国を代表する品格の高い文化観光の象徴になるのは間違いないだろう。

幻想的な月に照らされて

伝統公演を見る観客の上に輝く月

木々の間からも月が顔を覗かせる

古の回廊と現代建築の競演

古の人は奥の山にタワーが立つことを知って回廊を巡らせたのか…

 「昌徳宮月明かり紀行」は、韓国文化財保護財団のホームページ(www.chf.or.kr)から予約する(先着順)。春(4~6月)と秋(9、10月)の十五夜前後の数日間だけ予約を受け付ける。料金3万ウォン。1日100人前後が入場可能。詳細は韓国文化財保護財団=02・3011・2158。

 

2011-10-26 8面
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