米国で第2次トランプ政権がスタートした。好むと好まざるとにかかわらず、米国の韓半島戦略は韓国と北朝鮮(北韓)の行方に大きな影響を与える。
ましてや、北韓の金正恩総書記が韓国との統一を拒否し、韓半島が統一か永久分断かの岐路に立っているだけに、トランプ政権の出方には関心を持たざるを得ない。
独裁的な強権政治を得意とするトランプ氏は、大統領選の最中から、北韓の金正恩氏との個人的関係を根拠に、自分こそが北韓の核・ミサイル問題を解決に導けるとアピールしてきた。現時点での言動を見る限り、韓日は厳しい局面を迎えることを想定しなければならない。
トランプ氏は1月20日、「金正恩とは関係がよかった。核保有国だが、うまくやれた。私の復帰を喜ぶだろう」と述べた。国防長官に指名されたヘグセス氏も、北韓を「核保有国」と表現するなど、北韓の核放棄については米国内でも諦めムードが漂っているようだ。
一方の北韓も早速、第2次トランプ政権発足に反応した。朝鮮中央通信は1月22日、「米国でドナルド・トランプが大統領に就任した。彼は昨年11月に行われた47代米国大統領選で当選し、就任式が現地時間の20日にワシントンで行われた」と短く伝えた。是々非々も論評もなしだった。とりあえず米国の出方を見ようという金正恩氏の思惑だろう。とはいえ、第2次トランプ政権を意識したと見られる言動は度々見られた。
金正恩氏のスポークスマンと言っても過言ではない金与正朝鮮労働党副部長は2024年7月23日、「トランプが大統領を務めた時、首脳間の個人的親交関係をもって国家間の関係にも反映しようとしたのは事実」「公は公・私は私と言われるように、国家の対外政策と個人的感情は厳然と区別すべき」と述べた。
10月には「核保有国を相手にした軍事的挑発をするのはソウルとキエフ政権の気が狂った連中のすることである。米国が飼った癖の悪い犬の共通点」などと反米姿勢を鮮明にした。トランプ氏の先述のコメントは、与正氏の主張に対するアンサーとも受け取れる。すなわち、トランプ・金正恩の個人的信頼関係こそが、米朝対立を収めることができる。そのためには核保有を認めることも辞さないというメッセージだ。
一方、金正恩氏は「米国の戦略的核手段が与える脅威は増大しており、戦争抑止力をより確実に向上させ、核戦力の徹底した対応態勢をしっかり整えることを求めている」などと、相変わらず北韓は核保有国であり、核放棄はありえないと繰り返し強調した。
トランプ・金正恩が再びの米朝首脳会談を意識していることは間違いないが、懸念されるのは「核問題」をめぐる落としどころだ。「絶対に核放棄しない」と断言する金正恩氏と「核保有国」だと述べたトランプ氏。北韓の核保有がなんらかの形で容認される、例えば長距離弾道ミサイルの開発は認めないが、核爆弾については黙認する…日韓にとっては最悪のシナリオだが、史上初の米朝会談が行われた18年の当時とは、世界情勢も米朝も取り巻く環境が大きく変わっているだけに、あり得ないとは思えない。
高英起(コ・ヨンギ)
在日2世で、北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。著書に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』など。 |