第21代大統領選挙の争点は「政権審判」か「独裁阻止」かだったが、韓国国民は前者を選んだ。大統領弾劾にまで発展した非常戒厳事態に対する怒りが、共に民主党政権による「独裁」の阻止を上回った形だ。「次悪」を選びがちな韓国有権者の傾向をふまえると、将来的なリスクを防ぐよりも過去の責任を問うことに票を投じた結果となった。(ソウル=李民晧)
独裁へのアラーム鳴り始める
今回の選挙結果は重大な汚点も残した。複数の犯罪容疑で捜査中の候補が大統領に当選した。これは、1948年の大韓民国建国以来、憲政史上初めての事だ。当該候補の司法リスクは選挙前から広く知られていたにもかかわらず、共に民主党はこれを黙殺した。
これにより、同党は既に掌握している立法権に加えて行政権までも獲得し、独裁的権力基盤を築いたとの見方が出ている。残された三権のひとつである司法権についても、立法・行政による圧倒的優位を背景に、法改正を通じて「司法の独立性」が損なわれるのではとの懸念が高まっている。
立法・行政・司法の三権すべてを特定勢力が掌握した場合、国家権力に対する牽制機能が麻痺することは必至だ。批判とけん制が黙殺される体制が常態化すれば、おのずと次のフェーズは法治と民主主義の崩壊である。韓国の国家基盤である自由民主主義と市場経済体制すら揺らぎかねない。
戒厳の余波、マイナス成長率
今回の選挙結果は、尹錫悦前大統領による非常戒厳に対する国民の怒りが、投票結果に反映されたと見ることができる。戒厳令によって生計に打撃を受けたと感じる人々が少なくない。韓国では自営業者と低所得中小企業の会社員、ブルーカラー層が国民の7割を超えている。自営業者の人口比率だけを見ても、日本の約2・5倍にのぼる。
雇用が不安定なこれらの層は戒厳令のせいで「生活がさらに苦しくなった」と認識し、怒りを抱いてきた。経済の指標も悪くなった。韓国の第1四半期の経済成長率はマイナス0・1%で、新型コロナウイルス感染症のパンデミック以降で最悪を記録した。韓国銀行が最近発表した今年の年間GDP成長率の見通しも0・8%、これは2月時点の前回予測(1・5%)の半分程度にあたる。戒厳令の衝撃と国政の空白が経済悪化をもたらし、それが今回の選挙に影響を及ぼしたことは否めない。
米国はOK、日本はNO
一方で、韓国の安全保障の柱とされる韓米日3カ国による同盟の行方についても懸念する声が高まっている。李在明候補(当時)は、選挙期間中に開かれた韓日関係討論会に書面にて祝辞を寄せ「韓国と日本は長年にわたり緊密な協力関係を築いてきた重要なパートナー。両国の安保協力は、北東アジアの平和と大韓民国の繁栄を牽引してきた韓米日安保同盟の基盤である」(5月9日)と述べた。しかしその後、発言中の「同盟」という表現は「協力関係」に修正された。
これについては、「米国とは同盟だが、日本とはそうではない」とする意識の表れだとの指摘が出ている。共に民主党は過去にも、国民の力が「韓米日安保同盟」と表現したことに対し、「正気とは思えない」「謝罪すべきだ」などと強く批判した経緯がある。
3日、ソウル駅で有権者たちが放送3社の出口調査の結果をテレビで確認している |