梁東安(韓国学中央研究院名誉教授)
人間の衣服は人のからだに合わせて作った時こそ楽に着ることができる。国家のすべての制度も国が置かれている環境に照応して組織されなければならない。議会民主主義の運営制度も同じだ。すべての国の議会民主主義の基本的枠組みは同一だが、国々が置かれた環境によって議会民主主義を運営する制度の枝葉的事項においては差が生じるようになる。自国が置かれている環境の中で議会民主主義を効率的に運営しようとする知恵の発揮がそういう差を生んだのだ。
わが国は南北に分断された国であり、南・北韓の敵対関係が非常に深刻な水準で長期間続いている。また、わが国の内部には反体制革命を追求する勢力が非常に大規模で存在し、彼ら反体制革命勢力の中には北韓と繋がっている勢力もかなりの規模で存在している。わが国が置かれているこのような国家環境は世界歴史上その類例が見られないきわめて特異な環境だ。
わが国が置かれている国家環境がこのように特異なため、わが国で議会民主主義を効率的に運営するためには議会民主主義を運営する制度の枝葉的事項においてそういう特殊環境に対応できる特殊な補完装置が整えられねばならない。にも拘らず、この国の政治家たちや国民は議会民主主義を効率的に運営するためにわが国が置かれている環境に対応できる補完装置を整えようとする考えを全くしない。
今日、わが国の議会民主主義は高費用-低効率の議会民主主義の標本になっている。わが国の国会議員に提供される諸般経費の総合は、1人当りのGDP対比で世界最高水準だ。にも拘らず、この国の国会は討論や表決を順調に行なうことがほとんどなく、甚だしくは会議を開会することさえもまともに出来ずにいる。今こと時点でもこの国の国会は法律に違反して国会の開院もしていない。
わが国の議会民主主義が高費用-低効率の標本になっている最も重要な原因は、議会民主主義の運営制度にわが国の特殊な環境に対応できる特殊な補完装置が欠けていることである。わが国の議会民主主義の運営制度において欠如している特殊な補完装置として色々なことが考えられる。その中でも真っ先に取組むべきことは、北韓という敵対的存在とそれと繋がっている国内勢力がわが国会の効率的運営を阻害し、国会を革命闘争支援活動や国家安保機密漏洩の舞台として悪用することを防止できる装置である。
そういう防止機能を遂行できる装置は、国会議員に国家への忠誠を誓約させることだ。如何なる国でも国会議員は国家への忠誠の義務がある。国会議員は国民の代表であり、国民の代表なら国家への忠誠心も模範的に強い人でなければならない。国会議員が国家に対する忠誠の義務があるということはあまりにも当然のことのため、国家環境が平易な国々ではそれを特に強調する装置を備える必要がない。ところが、わが国のように世界歴史上類例の見られない特異な環境に置かれている国家ではその当然のことの当然性が守られていないため忠誠確認の補完装置が必要だ。
国会議員当選者が国会の開院式で、“われわれは大韓民国に忠誠を尽くし、大韓民国の安全を危険にすることをせず、大韓民国の憲法を遵守し、大韓民国の象徴らを尊重することを誓約する”という宣誓をするようにし、国会議員の倫理規定にこの宣誓を破った議員を懲戒するようにしておけば、大韓民国に不忠なことをしたり、北韓政権と繋がっている分子らが国会に進出することも国会議員職を維持することも難しい筈だ。そういう者らがいなくなるだけでも国会の運営が一層円滑になる筈だ。
国会議員が国家に忠誠の義務を負うことは当然のことだから、国会議員に忠誠宣誓を要求するこのような提案に国会議員の誰もが正面から拒否はできないはずだ。正面から拒否する国会議員は大韓民国への忠誠心がない人という烙印が押されるからだ。
正面拒否でなく顰蹙性の反論として二つが提起されそうだ。その一つは‘他国では例がないのに、なぜわが国だけがそういう幼稚な内容の宣誓をすべきか’という反論だ。もう一つは‘国会議員当選者は主権者である有権者が国家に忠誠をつくす人だと認めて選出してくれたのに、再び忠誠宣誓をしろということは有権者の主権を無視した行為だ’という反論だ。
初めの反論に対しては‘わが国が置かれている国家環境が他国とは比較すら出来ないほど特殊なため、われわれの議会民主主義を正常に運営するためにはそういう特殊補完装置が必要で、国家への忠誠の宣誓は決して幼稚な行為でない’という言葉で十分反駁できる。二つ目の反論に対しては‘国会議員選挙は候補者の国家への忠誠心を検証する行事でない’という言葉で十分に反駁できる筈だ。
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