著者は、崇実大学文芸創作学科を卒業後、2020年に京郷新聞の新春文芸に短編「赤い実」(本書収録)で当選し、鮮烈なデビューを飾った。以後、独特のシュールで優しい世界観が「イ・ユリ・ユニバース」と呼ばれ、注目を集めている。デビュー作ながら本書は韓国でベストセラーとなり、表題作は高校の国語教科書に採用されるなど支持を得た。著者は以降も短編集『すべてのものたちの世界』や連作小説集『素敵な場所で会いましょう』などを次々と発表し、着実にキャリアを積んでいる。
本短編集は全八編。日常の隙間に不思議な出来事が忍び込む物語が並ぶ。恋人の右手が突然ブロッコリーに変形したり、亡き父の骨を植木にまいたら声が聞こえたり、〝推し活〟の果てに海に浮かぶファン、元恋人の霊が訪れる夜など、どれも奇妙だがどこか身近だ。この不条理は、決して人を嘲笑うためのものではない。過労や喪失、抑圧された感情が、目に見える形で現れることで、登場人物たちはようやく苦しみを認め、ゆるやかに癒されていく。
著者はユーモアと温かみで「無理に耐えなくていい」と静かに語りかける。一編ごとに異なる風味が、疲れた心に染み渡る。
リトルモア刊
定価=2090円(税込)
|