ESS市場が急拡大
電力産業分野では、人工知能(AI)を活用して電力の需給バランスを調整し、安定した電力供給を可能にするエネルギー貯蔵システム(ESS)市場が世界的に急拡大している。日本、韓国でもESS関連の電力プラットフォーム事業を手掛けるスタートアップ企業が台頭し、韓日競演が繰り広げられている。
ESSは電力を一時的に貯蔵し、電力の需給バランスを調整して必要な時に供給するシステム。太陽光や風力発電など、発電量が変動する再生可能エネルギーの安定化と普及拡大に不可欠なシステムとして需要が拡大している。
電力取引プラットフォーム事業
スタートアップが東証上場
日本ではAIを活用した電力取引プラットフォームを運営するスタートアップ企業のデジタルグリッド(東京・港区)が2025年4月に東証グロース市場に上場し、電力プラットフォーム事業を牽引している。
これは電力の売り手と買い手が自由に売買できる環境を提供し、AIによる需要と供給量の予測を通じて手数料を得るビジネスモデル。通常の電気に加えて再生可能エネルギー由来の電力も取り扱い、需要家は再生可能エネルギーの割合などを自由に決めて電力を調達できる。
韓国のESSスタートアップ
日本市場に進出
LGエナジーソリューション、サムスンSDI、SKイノベーションが韓国の主要なESS企業だが、スタートアップではESSの運用管理サービスを手掛けるH ENERGY(エイチエネルギー)が注目される。
エイチエネルギー(慶尚北道浦項市)は、太陽光発電所のAI管理プラットフォーム「ソーラーオンケア」を中心に、屋上太陽光発電システムの賃貸収益サービスや、太陽光エネルギー投資プラットフォームMOHAET(モハット)など、再生可能エネルギーを運用管理する。
同社は韓国で実証済みの電力プラットフォーム事業を携え、日本のESS市場に参入、電気料金削減効果を実証する技術実証事業に乗り出した。エイチエネルギーのESS事業は電気料金が安い昼間に電気を蓄え、電気料金が高くなる夜間に使用することで、家庭の電気料金を削減するビジネスモデル。AIによる電力需要の予測・管理技術を組み合わせ、ESSの充放電タイミングを最適化してエネルギー効率を最大化することにより、電気料金を削減する。
日本での技術実証事業は、地域の電気小売事業者にESSを設置、運用することにより得られる電力削減効果を実証する。これを踏まえ、エイチエネルギーでは、分散型電源を活用した日本の電力産業への本格参入を目指す。
活発化するESSを巡る市場
争奪戦
ESSはエネルギーを貯蔵する装置とエネルギー変換システム、制御システムで構成され、電力エネルギーの貯蔵にはリチウムイオン電池などのバッテリーエネルギー貯蔵システム(BESS)が広く普及している。
ESSの世界市場規模は、2024年に29億5000万ドルに達し、33年には119億3000万ドルに成長すると予測される。この巨大市場を巡る市場争奪戦は、太陽光発電システムとの連携や電気自動車(EV)用バッテリーとの相乗効果を狙う電池競争を交えてヒートアップしており、韓日ESSスタートアップの競合にも拍車が掛かっている。 |