金雄基(翰林大学校日本学科教授)
大阪白頭学園建国学校の伝統芸術部は、韓国で大統領賞、日本でも文化庁長官賞を受賞し、京都国際の甲子園優勝と並び韓国学校として最高の成果を挙げている。
彼女らは韓国伝統打楽器や民族舞踊に励み、韓日そしてアジアを結ぶ文化交流の担い手として多くの人材を輩出してきた。しかし、その彼女らがいま韓国行政によって苦境に立たされている。
「特別永住資格」という烙印
文化体育観光部傘下の韓国芸術人福祉財団は、自らが韓国内での活動実績を証明する「芸術人証明」を受けた者を対象に各種支援事業を行う機関である。伝統芸術部出身の2人も証明を受け、それを根拠に3〜5年前に「創作支援金」を受給した。ところが財団は今年になって返還と共に、今後5年間の支援申請も禁止する処分を下した。その理由は「在外国民」であること。24人の処分対象者のうち少なくとも6人が在日同胞だ。
海外永住権を根拠に「韓国での福祉対象外」とする行政論理は、在日同胞など、旧植民地出身者とその子孫のみを対象とする特別永住資格を理解していない。また韓国政府は在日同胞の法的処遇について日本政府と交渉する当事者でありながら、日本で居住権以外は「無権利の外国人」とする内容に合意している。こうした経緯がありながら、植民地支配の犠牲者としての歴史がある在日同胞を戦後の自発的移住による経済移住者と同一視している。
沈黙と終わらない闘争
一方、在日同胞は韓国国籍を持つ以上、国民として義務(兵役など)は「平等に」課される。それにもかかわらず、権利面では「在外国民」として排除される。この不均衡に対して在日社会が無関心であることも大きな問題だ。特に同胞の生活者団体を掲げる民団は、その名目の下に年間80億ウォン近い政府予算を受け取る立場にありながら、この明白な人権侵害に対して改善を求めてこなかった。これは明らかに民団の役割を放棄するものであると言わざるを得ない。
私がこの問題を知ったのは、在韓22年の人形劇アーティスト高圭美氏との出会いからである。彼女もまた、建国出身の処分対象者である。共に抗弁書を作成し、政府に請願も行った。そして、行政訴訟を提起した。高氏は「自らの存在証明をかけた闘い」と語った。私が関与して100日後に処分は取り消され、伝統芸術部出身の2人もこれに続いた。
しかし、制度上の問題は依然として解決していない。「在外国民除外」は2023年以降、募集要項に明文化され、制度として固定化されている。よって、未だ処分が下されたままの在日芸術家が残っている。
沈黙を破り、制度改革に向かって
建国伝統芸術部出身の2人は大阪市内の小学校にある民族学級でルーツを学びはじめた。その中で伝統芸術部の公演に触れ、伝統文化を志した。つまり、これは小中高に連なる民族教育の成果である。だが韓国行政の論理では、教育部が支援する民族教育の成果を文化行政が否定しているに等しい。こうした縦割り行政の歪みが、在日同胞差別の温床となっている。
しかし、それ以前に在日同胞を他の永住権者と同様に「在外国民」に括るという、韓国法制度上の構造的差別がある。その結果、 在日同胞は居住国・国籍国の双方においてシチズンシップが不完全という、世界的にも稀な権利状況に置かれ続けている。
今回の事件は、700万の在外同胞の中でも特に脆弱な立場に置かれている在日同胞の権利状況を露呈させた。いま求められるのは、在日側からの明確な異議と制度改革への働きかけである。韓国との公的な交渉ルートを有している民団が韓国政府と協議の場を持ち、特別永住資格所持者に対する一般永住権者とは別個の法制度整備を要求すべきだ。
建国伝統芸術部出身の若き芸術家たちは、民族教育の希望そのものだ。その努力を「国籍の外」に追いやるような韓国行政の姿勢は、国家の成熟を自ら毀損するものである。今月末に財団に対する国政監査が予定されているが、行政が在外国民を排除の対象とすることを当然とする慣行にメスを入れるべきだ。
沈黙は是認であり、屈服である。 |