韓日両国の「贈り物文化」は、儒教の影響を受け、相手に感謝や敬意を表す重要な慣習だ。日本では7月の中元が終わり、年末の歳暮シーズンへ向かう。韓国では10月の秋夕に向け準備が進む。だが、核家族化、ビジネス上の人間関係の変化、デジタル化や法規制などで両国の伝統的な贈り物文化が変わってきている。「贈り物文化」の背景と現状について取材した。
韓国と日本では、贈り物文化が社会関係の維持や礼儀作法に深く根付いている。両国とも儒教の影響を受け、家族、友人、上司への贈り物は感謝や敬意を表す手段として重要だ。
韓国では「ソン・ムル」が日常的に行われ、日本では「贈り物」や「ギフト」として季節の風習が特徴的である。
韓国は正月や秋夕
韓国では主要な行事として、正月や秋夕があり、家族や親戚にコメ、果物、伝統菓子などを贈る。ビジネスシーンでは、上司や取引先に高級果物(梨や柿)や健康食品を贈るのが人気だ。結婚や引っ越し時の現金贈与(現金封筒)も伝統的。
韓国特有の習慣として、引っ越し祝いにトイレットペーパーを贈る文化がある。トイレットペーパーは「生活必需品」であり、「新しい生活がスムーズに流れるように」との願いを込めて贈られる。1980年代から広まったこの習慣は、特に親しい友人や近隣住民間で行われ、1パック(10~30ロール)程度が一般的。
一方、贈り物が”賄賂”として利用されてきたこともあり、法規制が行われた。法務部の公式サイトによると、「金英蘭法」(2016年施行、正式名称:公務員行動準則法)により、公務員への贈り物は1回100万ウォン、年間300万ウォン以内に制限され、超過は罰金や懲役の対象。民間企業にも適用され、23年の検察庁報告では、賄賂事件の約20%が「贈り物名目の授受」で、高級果物や酒類が摘発事例に挙がる。
こういったなか近年、大きな変化が起こっている。
東京ギフトショーに出展した企業に最新の韓国贈り物事情について聞いたところ「電子ギフトカードや現金が圧倒的に主流となっている」という。「自分の好みを押しつけるのではなく、相手に欲しいもの、必要なものを買ってほしい」というのがその理由だ。
韓国電子商取引協会(23年データ)によると、COVID19以降、オンラインでの贈り物の割合が急増し、電子クーポンやデジタルギフトカードが主流化。カカオトークやネイバーギフトサービスで、スターバックスやロッテ百貨店のクーポンを即時送信可能となった。デジタルギフトの市場規模は約2兆ウォン、今年は3兆ウォンを超えると予測されている。現金贈与も銀行アプリ経由で増加、伝統的な現金封筒を代替している。
日本は中元や歳暮
日本の贈り物文化は四季折々の風習が特徴で、中元と歳暮が代表的。中元は夏(7月)にビールやハム、洗剤セットを、冬の歳暮(12月)には果物や海産物、酒類を贈る。文化庁の資料では、江戸時代からの「贈答文化」として、相手の負担を考慮した「半返し」が慣習とされる。
これらの風習は近年、減少傾向にある。総務省の生活時間調査(22年)では、中元・歳暮の実施率が1990年代の50%超から2020年代には30%未満に低下。高齢化、核家族化、物価上昇が理由とされる。
一方、韓国で普及している電子ギフトは、日本市場は23年に約1兆円(日本ギフト協会データ)だが、電子クーポンの割合は20~30%で韓国ほど高くない。
韓国と日本の贈り物文化は、伝統を基盤に現代のデジタル化や規制に適応中といえるだろう。両国とも関係性を大切にしつつ、実用性を求める変化が見られる。
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