「国中の人々は、生前の功績を告げねばならない、わが大王様に。
空高くから照らしてくださる御日様である皇子は、荒れ地をこの上なく美しく見事におさめるね。
藤の蔓が伸びる野原に敢えて意地を張り宮を建て、皇子様をお迎えする。
政に尽くす連中も、新しく建てられた宮殿がどれほど気品高いか皇子に告げよう。
皇子の霊魂は永らく権力を保たなければならない。
皇子は天と地に住まいを構えなければならない。
人夫たちが立ち休らい、小急ぎに歩きながら宮殿を建てる。
清き海の国、官服を着た人々はきっと畑の上の山に行き、木を伐るのを助け、努めて檜を持って来い。
女たちは人々に食べ飲むものを恵み仲睦まじくせよ。
多くの氏姓の人々は河に皇子の生前の功績を美しく構えたものを流し、皇子を仰いで恨みが晴れるようにし、皇子と我々が永らく和するようにせよ。
民が皇子を忘れかけ、多くの人々は皇子の功績を伝えていない。
人々が流したものが水の上に漂っている。
私がこの歌を作るのは、日雙皇子が動き始められたと門の神に告げるためでない。
国の大きな権威を保った方は道に沿って去った。
皇子の生前の功績を美しく構えて、三十人に生前の功績を記録した本を担がせた。
霊験あらたかな亀が新たに跡をつぐだろう、あらゆる泉や川の水面に映る月のように。
木を伐る仕事に麻の服を着た人(高貴な身分の人)百人では足りず五十人をさらに呼んだ。
彼らは日雙皇子の宮を大きく作り、去った。
君よ、蘇りて永らく藤原京に立ち現れますよう。
皇子様は、我々の願いに応じてください。」
万葉集の50番歌はまるで日本アルプスのように雄大だ。アルプスの背骨、古峰峻嶺に該当する。険しい峰と美しい峻嶺が逸品だ。冴えた気性が噴出している。50番歌は万葉集の巻1の真ん中で万葉集の4516曲のすべての作品に命を吹き込む。何度も繰り返し解き、吟味しても飽きなかった。
万葉集の古峰峻嶺 持統万葉の絶頂(万葉集50番歌) <続く> |