万葉集の156番歌の作者は高市皇子(たけちのみこ)である。156番歌に壬申の乱の秘密が記されていた。十市皇女が父の大海人皇子に夫の動静を伝えていたのだ。
大海人は娘から得た情報によって自分の命が危ないことを知り、死に物狂いで壬申の乱を起こした。乱の期間中、十市皇女を通じて大友皇子側の機密が分かったはずである。
十市皇女の情報が壬申の乱の勝負を事実上決めたのだ。大友皇子はそんなことがあるとは夢にも思わなかったはずだ。敵は本能寺にあり、だった。大友皇子は百戦百敗するしかなかった。
156番歌は、十市が夫の動きを天武天皇側に密告したという、歴史書「扶桑略記」の記述と一致する。扶桑略記の短い記録は156番歌とともにたらたらと血が流れ落ちる残酷な記録だった。
156番歌の作者の高市皇子は壬申の乱のとき、父の天武天皇を助け戦に直接参加した。高市皇子は壬申の乱を最も深くまで知っていた4人の一人だった。その4人とは、天武天皇、持統天皇、草壁皇子、高市皇子である。したがって高市皇子が記した156番歌は、最も正確な史料と言わざるを得ない。
十市皇女は天武天皇にとって、かけがえのない娘だった。皇女は678年4月7日に亡くなり、4月14日に赤穂で葬式が営まれた。赤穂は現在の奈良県北葛城郡広陵町と言われている。
壬申の乱は、多くの人々の運命を変えた。十市皇女は、焚き火に飛び込む蛾のように、権力闘争の中に身を投じざるを得なかった女人だった。
ある日、彼女は運命の分かれ道に直面した。左へ行けば夫が、右へ行けば父がいた。どちらかを選ばざるを得なかった。
夫を救うのか父を救うのか。彼女は父親を選んだ。彼女の選択によって歴史がひっくり返った。万葉集の中に人生の悲劇があった。
読者の皆さんがどちらか一方だけを選ばなければならない運命だったら、どちらを選ぶだろうか。
この原稿を書いている今、韓国のソウルでも「壬申の乱」に劣らない乱が起きている。「弾劾戦争」である。数多くの人々の運命が変わりそうだ。
万葉集に隠されていた悲劇の人生 十市皇女(万葉集25・26・27・156番歌) <了> |