次は「150番歌」。
空蟬 師 神 尒 不勝 者 離 居而 朝 嘆
君 放 居而
吾戀
君 玉 有者 手尒卷 持 而 衣 有者 脱時 毛 無
吾戀
君 曾伎 賊 乃 夜夢 所 見 鶴
多くの人々が、神も勝てなかった方がこの世を去るため朝から嘆いている。
天皇が旅立たれる。
私は貴方を偲ぶ。
君は玉で飾る暇がなかったし、服を脱ぐ時もなかった。
私、貴方を恋しがっている。
君は盗人のように、真夜中に夢とかで見られる。
妃が作った歌である。妃の一人だった越道君伊羅都売(こしのみちのきみいらつめ)の作品と思われる。この妃は後日、桓武天皇の曽祖母となる方だ。現在の皇室と深い関係のある作品である。
空蝉とはセミが抜け出した空の殻だ。命の抜けた皮である。
天智天皇は玉をもって飾って楽にしていられる時間もなく、服を脱ぐ暇もないほど常に仕事をしていたとの意味である。天皇の生前の業績を美化、称える句だ。
「君は盗人のように、真夜中に夢とかで見られる」の一節も、夜遅くまで仕事をされたという意味である。
鶴という鳥が出る。天智天皇の魂が鶴になってあの世に飛んでいくという意味だ。
次は「151番歌」。
如 是有 乃
懷 志
勢 婆 大御船 泊 之 登
萬里人 標結 麻 思 乎
こんなことがあり得るのか。
君への恨めしさを胸に秘め、涙歌を詠む。
勢いよく大御船が渡場に着く。
天皇陛下が乗られる。
万里の人々よ、標を結んで悲しみなさい。
作者は額田王だ。
「如 是有」は「こんなことがあり得るのか」と解ける。韓半島語が分からないと出てこない言語構造だ。額田王は韓半島語が堪能な女人だった。
額田王が作った愛憎の作品だ。後継者を弟の大海人ではなく、息子の大友皇子を選んだと恨めしい思いをする。
その思いを胸に抱くという意味だ。「標を結んで」は、天智天皇がまた戻られる際、道に迷わないように標識を結んでおくという意味になる。
神も勝てなかった君(天智天皇への涙歌9首)
<つづく> |