韓国の雇用市場は近年、求職者と企業のミスマッチや、大手と中小の格差、非正規雇用の増加などさまざまな課題に直面してきた。こういったなか、就職しない若者=カンガルー族の増加が社会問題化してきた。一方で、新卒採用市場における若年層の意識の変化もみられる。韓国雇用市場のいまを探った。
■高学歴社会と狭き門
韓国はOECD諸国の中でも特に高い大学進学率を誇り、多くの若者が四年制大学や大学院へ進学する。その結果、過度な学歴社会となり、名門大学の卒業生でも就職活動は極めて厳しい。特に大企業への就職は依然として人気が高く、サムスン、LGといった有名企業は狭き門となっている。このため、学歴だけでなく語学力(特に英語や中国語)、インターンシップ経験、各種資格などが求められる傾向がある。
安定志向の高まりにより、多くの若者が公務員試験に挑戦するのも特徴だ。
韓国では、公務員が安定した収入と福利厚生を保障される職業として評価されており、競争倍率は非常に高い。
大手企業や公務員と比較し、中小零細は給与面や福利厚生などで大きく劣る。大企業と中小企業の給与格差は若手時代でも2倍以上に開いており、大企業に入るのが韓国では「勝ち組」とされる。そのため、大企業や公務員試験の合格を目指し、何年も就職浪人を続ける20~30代の若者も多い。
■「カンガルー族」の増加
こういった背景もあり韓国の若年層(15~29歳)の就業率は他の年齢層に比べて高く、社会的な課題となっている。
また、経済的に自立する年齢になっても独立せず、実家の両親に依存して生きる「カンガルー族」と呼ばれる若者が急速に増えている。
OECDの報告書によると、韓国は両親に頼って暮らしている20代の比率が81%と、OECD平均(50%)を大きく上回り加盟国の中で最も高かった。男性の兵役義務によって就労の遅れがあるものの、就職難に加えて住宅価格や生活費の高騰が影響している。
韓国統計庁が発表した「2024年の年間雇用動向」によると、昨年の「休んでいる」人口は246万7000人で、前年比11万7000人(5%)増加し、03年に関連統計が開始されて以来の最大値となった。
「休んでいる」とは、重篤な病気や障害がないにもかかわらず、求職活動をしない非経済活動人口を指す。昨年のこの人口は、家事(600万8000人)、在学・受講(327万4000人)、高齢(252万4000人)に次ぐ割合を占めた。
20代(38万9000人、前年比4・7%増)と30代(30万2000人、前年比10・8%増)の急増が目立つ。
■若年層の就職意識に変化
年が明けて発表された調査報告書では、韓国若年層の就職に対する意識に変化がみられることがわかった。大手企業への求職競争が激化する中、新卒の就活生らは特定の企業を目標とするよりも、まずは内定をもらえたところで働こうとする考えが広がっている。
キャリアプラットフォーム「サラミン」が、新卒の就活生464人を対象に「今年の就職目標」について調査した結果、企業形態に関して「就職さえできればどこでも構わない」と答えた人が過半数の55・2%に上った。
企業形態を問わず就職したい理由としては「早く就職しなければならないから」(55・1%、複数回答可)という回答が最も多く、次いで「長引く就職活動に疲れたから」(39・1%)、「他人よりも学歴・資格などの経歴などの強みが不足しているから」(31・3%)、「景気が悪くなり採用が減っているから」(28・5%)、「目標とする企業に入るのが難しそうだから」(12・9%)と続いた。
一人あたりGDP(国内総生産)で日本と並ぶまで成長した韓国だが、若年層の意識が今後、より柔軟になり”カンガルー族”が減少する社会になれば、さらなる経済発展につながるのではないだろうか。
|