年末年始、韓国は尹錫悦大統領による「非常戒厳」という事態で大きく揺れ動いた。尹大統領はその後、内乱罪で現職大統領としては初めて起訴され、弾劾審判が始まっている。メディアのみならず、韓国関係の仕事をしている人々は、この事態を固唾をのんで見守っているという状況だ。筆者もその一人であり、すぐにでもソウルに飛んで行きたいところ、歯がゆい思いをしながら日々の報道や韓国から寄せられる情報を注視している。
尹大統領はSNSなどの不確かな情報に翻弄されていたという報道がある。インターネットの広がりで、情報収集は以前に比べ格段にたやすくなった。語学学習ひとつを例に取っても、単語を辞書で引くという当たり前の行為が、今ではすべてネットで済ませられるし、読み上げや字幕の機能で瞬時に発音や意味を確認できる。だが、簡単に見つかる情報は果たして信じるに足るものだろうか。いいねの数がある日いきなり増えるのはどうしてだろう?
『TUBE』の主人公ソンゴンはあるプロジェクトを始動する。今の状況から抜け出し何かに挑戦したい人と、それを応援する人をマッチングするというプロジェクトだ。そのために、彼は失敗だらけの自分の生き方と、そこから抜け出すための目標、努力、そして家族からの応援、といったこれまでの人生をYouTubeチャンネルで熱く語った。プロジェクトは話題を呼んだ。だが、それは小さな成功に過ぎない。いずれは頭打ちになるのがわかっていた。そんな時、ソンゴンは交通事故に遭う。朦朧としながらも、横転したバスの乗客を必死で助け出したソンゴンの行動は多くの人々に感動を与えることになる。ソンゴンの名は全国に知れ渡り、SNSのトレンドとなった。YouTubeの登録者数は数日で想像を超える水準に達し、彼は一躍、時代の英雄と持て囃されることになる。
『ゴールデンスプーン』の主人公スンチョンは再度テヨンと入れ替わるが、現実は甘くなく、陰謀によって海外に追いやられてしまう。だがその間、スンチョンはただ手をこまねいていたわけではなかった。虎視眈々と再起の道を探っていたのである。何度となく陥れられそうになったスンチョンだったが、ある事件の証拠映像が配信されると、彼の立場は一気に逆転する。既存のメディアなら突然放送中止に追い込まれることもあるが、配信となるとそうはいかない。ライブ映像はあっという間に世界に広まっていく。
ソンゴンとスンチョンはネットの力によっていったん成功をおさめるが実際のところ、それも長くは続かない。日々刻々と変化し、新たなトレンドが現れる世界ではどんなに刺激的なことであってもすぐに塗り替えられてしまう。
国や社会が違っても、誰もが成功を夢見ている。大統領の地位まで上り詰める人もいれば、その人を応援することで満足感を得る人もいる。成功と失敗を繰り返しながら、なんとか次の一歩を踏み出す人もいる。そんな時、彼らにとって、そして私たちにとって、必要なものは何だろう? ひとつ言えるのは、どんなことであっても自分で思い描いた夢に向かって自分の力で歩む姿は美しいということだ。そこにはもはや金のさじは必要ないといっても過言ではないだろう。 |