万葉集の編纂者が誰なのか、なぜ作ったのかは、千年が経った今も正確には分かっていない。
万葉集の編纂者はどういう事情からか、二つの作品を始めに配置した。編纂の意図が推し測れるため、万葉集の1番・2番歌の解読は格別な意味を持つと言えよう。
1番歌は、この連載の第19回・20回で取り上げた。作者は雄略天皇(在位456~479年)だ。雄略天皇は考古学的に存在が実証された古墳時代の最初の天皇とされる。
万葉集はこの「初代天皇」の話から始まるのだ。つまり、天皇に関連した歌集であることが分かるようにしている。そして2番歌以降の、全ての作品も後代の天皇の治世に起きた出来事の話である。
万葉集の2番歌は、舒明天皇(在位629~641年)の作品だ。1番歌と2番歌、この2つの作品の時間的間隔はおよそ200年。その間に実在した天皇たちの話は万葉集に収録されていない。
一方、2番歌からは、舒明天皇以降のほぼ全ての天皇に関連した作品が収録されている。万葉集は歴代の天皇を、舒明天皇の前と後に区分している。万葉集は、舒明天皇以降の天皇たちに対する歌集という意味となる。つまり、万葉集は舒明天皇を祖先とする子孫たちの物語を収録した歌集だった。
舒明天皇がある日、香具山に登って下を見下ろしながら、皆が一緒になって和やかに暮らす国になるようにと万葉の神様に願っていた。日本が、今日の国家精神としている「和」の精神が、まさにこの2番歌に根を下ろしている。
2番歌を解読してみよう。
山 常 庭村
山 有 等 吹 與呂 布
天 乃 香具山 騰立 國見 乎 爲者
國 原 波 煙 立龍
海 原 波加 萬 目 立 多 都
怜 怐 國 曾 蜻
嶋八間 跡 能 國 者
山にいつも天皇の旗を立て、庭といおり(庵)を作っておいた。
山にいる人々が笛を吹いているね。
天に届く香具山に登り、国を見下ろすべきじゃ。
国中の野原には波立つように(飯炊きをする)煙が立ち昇るのが龍のようだ。
海辺の波が打つのが、一万人が駆け付けるようだ。
賢くあるいは愚鈍な国のトンボたち(民)が八つの島の間を往来しながら、きっとむつまじく生きる国にならねばのう。
2番歌をこれまで研究者たちは次のように解釈してきた。
やまとには むらやまあれど とりよろふ あめのかぐやま のぼりたち くにみをすれば くにはらは けぶりたちたつ うなはらは かまめたちたつ うましくにぞ あきづしま やまとのくには。
(大和にはいろいろな山があるが、特に美しい天の香具山に登って国を見渡せば、国土には炊煙が立ち上り、海原には鴎が飛び立っている。素晴らしい国だ、蜻蛉島<あきづしま>なる大和の国は)
万葉集に込めた舒明天皇の念願(万葉集2番歌)
<続く> |