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2021年02月17日 00:00
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韓国スローフード探訪46 薬食同源は風土とともに 
春の仁川の逸品「カンジャンケジャン」

 世界有数のハブ空港で知られる仁川国際空港。仁川の名は、この空港の完成とともに世界中に広まった。空港から仁川市内までは電車やバス、タクシーで約1時間。
昔から港街として栄えてきたこの街は1950年に勃発した朝鮮戦争の際に、国連軍によって仁川上陸作戦が行われたことでも知られている。その時の指揮官だったマッカーサーの銅像が自由公園にある。また、市内にはチャイナタウンもあって、どこかエキゾチックな空気が流れている。
この街を初めて取材で訪れたのは仁川国際空港もなかった頃のこと。月尾島の客船のターミナルや周辺のカフェ通りはデートスポットとして人気のところ。その周辺一帯を取材中に、遊園地などがある松島で地元の方から「カンジャンケジャンは食べた?」と聞かれた。どうやら仁川はワタリガニでも有名ということで今(春)が旬だという。ソウル市内で何度か食べたことはあったが、食べにくいという印象しかなかった。
 カンジャンケジャンはワタリガニを生のまま、さまざまな薬味を入れた醤油に漬けたもの。新鮮さと合わせ調味料が決め手となり、一晩漬けると食べごろになる。4月~6月・9月~12月が旬。
多くの人が「美味しい」と絶賛するカンジャンケジャン。そうは思えずにいたこともあって、どうしても食べたかった。地元の人に教えてもらった食堂へと向かった。平日の午後2時。「おっと!」店内はカンジャンケジャンを囲みながら焼酎を酌み交わす人たちでほぼ満席。キョロキョロしていると「日本人?」と流暢な日本語で店の人が声をかけてくれた。「カンジャンケジャン、4人で。こちらの席に」と、商売上手というか手際がいい。
今が旬とあってか、さまざまな地域からバスを仕立ててやってきているようだ。「うわぁ、ワタリガニが大きい」同行しているスタッフの一人が隣のテーブルを見るなり感激の声。「何だかソウルで食べたのより量も多いみたい」と、大きさと量にえらく感動の様子。テーブルに4人分の小皿料理(バンチャン)が並んだ。そこに大皿に乗ったカンジャンケジャンが運ばれてきた。さらに小さな皿にもカンジャンケジャンが。「おまけ?」と喜んでいると店の人がやってきて「食べ方がわからないと残して行ってしまう日本人が多いから、一緒に食べて教えますからね」と。どうやら小さい皿の方は店の人が自分で食べるものだった。うれしそうな表情で「こうやって足の部分を」と食べ方を指導し「食べ慣れている人は甲羅のミソとご飯を合わせ、さらに玉子(黄身部分)を絡めると極上の味になってね」と、美味しそうに食べていく。それを見ながら、4人は無言で食べ進んだ。「美味しい!」カニの淡泊な風味に、合わせ調味料がまろやかに溶け合っている。極上の味にもトライした。甲羅のミソとご飯を合わせてひと口。美味しいという言葉では言い尽くせない。丸ごとカニそのもの。鼻の周辺もカニの風味がいっぱい。店の人に合わせ調味料のことを訊いてみると、しょう油に、ニンニクや生姜などの薬味とともにさまざまな調味料が入っているという。「化学調味料は使っていないから」と続けた。それから数年後、仁川を訪れてみると街の様子は大きく変わっていた。嬉しかったのは松島ワタリガニ通りが出来ていたことだ。以来、ソウルから電車で行ったり、空港への途中で寄ったりするようになった。
ワタリガニは栄養価も高く、特にビタミン12を多く含んでいるといわれている。それをさらに薬効成分のある合わせ調味料に漬け、いっそう栄養価を高めたこの料理は優しい味わいながら底知れぬパワーを秘めた逸品である。
もうすぐ春がやってくる。カンジャンケジャンを現地で食べる日が早くやって来ることを願う。

新見寿美江 編集者。著書に『韓国陶磁器めぐり』『韓国食めぐり』(JTB刊)などがある。

2021-02-17 5面
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