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2020年02月19日 00:00
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キスン便り<第11回> 桜考(1)

 日本人の桜好きは有名ですが、今回はその淵源を辿っていきたいと思います。
さくらの「さ」というのは山の神さまという意味です。「くら」は居ますところ、という意味です。つまり「さくら」というのは山の神さまが山から下りてきて居られる所、という意味になります。神さまが降りて来たかどうかは、冬を耐え抜いた里の裸木に、ぱっと花が咲いたことで分かります。それで人々は神さまのいる木の周りに集まり、飲食や歌舞で神さまを歓待し、豊作を祈願しました。花見はこうして始まったのです。
さて、ここで考えてみたいのは、山の神さまを意味する「さ」という言葉についてです。私はこれは現代韓国語の「セ(鳥)」の古語、つまり古代朝鮮語であろうと思っています。
古代の朝鮮では鳥は天上界と下界とを繋ぐ存在でした。高句麗の舞踊塚では、頭に鳥の羽根飾りをつけた男性が馬上から弓を射る姿が描かれています。新羅の古墳からは、船の舳先に鳥が居る埴輪が出土しています。鳥は、此の世の魂が天上に戻るときに乗っていく乗り物でした。ですから古事記の素戔嗚尊(すさのおのみこと)も死ぬと白い鳥に変身して、飛んでいきました。そしてその鳥が着地したところに墓を作りました。古代の人々は鳥を天からの使い、あるいは神そのものと捉えていました。
鳥を意味する現代韓国語の「セ」は古代朝鮮語では「セ」ではなかっただろうと私は考えています。「セ」の前は「ス」と発音されており、その前は「サ」であっただろうと思っています。おそらく日本にはそれぞれの時代の言葉が伝わっているのだろうと思います。
それでは、先ずは「ス」について見ていきましょう。
下関の忌宮神社に数方庭祭りというのがあります。長い竹に幟をつけて練り歩く祭りです。「数方庭」の語源は谷川健一氏が書いた「日本の神々(岩波新書)一九九九年」によると朝鮮の「蘇塗」だ、とあります。蘇塗については魏志韓伝に記述があります。
魏志韓伝というのは有名な、卑弥呼が出て来る魏志倭人伝の、前に書かれている部分です。魏志韓伝は帯方郡よりも南の地域について書かれています。帯方郡というのは、後漢が朝鮮半島に置いた活動拠点の名前で、ソウルとピョンヤンの間にあったとみられています。
蘇塗に関する部分を今鷹真・小南一郎訳による『正史三国志』(ちくま学芸文庫二○○七年)から引用します。
<(前略)鬼神を信じ、国々の邑ではそれぞれ一人を選んで天神の祭りを司らせ、その者を天君と呼ぶ。またそれぞれの国にはおのおのもう一つの邑があって、蘇塗という名で呼ばれる。そこには大きな木が立てられ、それに鈴と太鼓とをぶら下げて、鬼神の祭祀を行う。逃亡者たちもその場所に逃げ込むと、連れ戻されることがないため、〔そこを隠れ家として〕盛んに悪事をはたらく。蘇塗を立てることの意味は、仏教徒の浮屠(仏塔)と似たところがあるが、そこで行われることは、一方は善事、一方は悪事と全然異なっている。(本文中のルビかっこ書きは原文のまま)>
ここに書かれている「蘇塗」は現代朝鮮では「ソッテ」に変化していると考えられます。ソッテは細い棒の上に木彫りの鳥が置かれているものをいいます。トーテムポールが杖になったようなものです。ソッテが立っている場所は土地の境界を表します。
現代の韓国では飾りとして用いているようですが、昔は日本の「鳥居」のような役割を果たしていたと思われます。ソッテの外は人間界で、内が天界です。ちなみに「鳥居」は「鳥居ますところ」なので「鳥居」といいます(諸説あります)。
李起昇 小説家、公認会計士。著書に、小説『チンダルレ』、『鬼神たちの祝祭』、古代史研究書『日本は韓国だったのか』(いずれもフィールドワイ刊)がある。

2020-02-19 5面
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