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2018年08月15日 00:00
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トランプ政権をどうみるか―李春根博士
パラダイムの変化を捉えよ 21世紀のニクソン・ドクトリン

李春根博士
トランプは経済力で中国を憲政

米の対北政策は対中政策に従属

 20世紀に入ってから堕落した既成政治権力の打破を掲げて当選したトランプ大統領が、米国だけでなく、国際政治のパラダイムを揺るがしている。トランプ大統領は果たして、米国政治や国際秩序に決定的な変化を引き起こすだろうか。韓国と日本は、北核問題や拉致問題など、主に東アジアの情勢に関心を示しているが、トランプの外交は20世紀の国際秩序のパラダイムを変えることだ。米国の主な関心事は、覇権の維持だ。この点を理解しないと今後、米国が主導する国際秩序の再編過程で適応、参加しにくくなる。トランプ政権が伝統的な同盟国に対してどう接することになるかなどを聞くため、米国政治や国際政治において優れた発表をしている李春根博士を取材した。取材内容と李博士の講演(7月26日、ソウル)を紹介する。(取材・整理=本紙取材班)

 国家安保の基本原理は、自国において「怖い国」からくる脅威を減少させる諸努力を意味する。「怖い国」ではなく「憎たらしい国」と戦うのは安保ではない。では「怖い国」とは、どういう国なのか。感情や情緒的な基準ではなく、近くに存在する強い大国の中で最も力の強い国、もしその国が独裁国家なら、自国の安保政策の対象となる。ただし、自由民主主義体制の間では戦争をした例がない。
国際政治は、常に変化するもので、米国こそ国際政治では永遠の友も、永遠の敵もいないことを最もよく見せている国だ。

トランプの外交感覚

トランプが大統領候補だった時、なぜロシアのプーチンと仲良く付き合っているのかという質問を受けるや、彼は直ちに、ではプーチンと習近平が仲良くするよう放って置けということか、と返した。米国が、中国とロシアをともに敵にすることは「下策の中の下策」だ。国際政治の原理からすれば的を射た答えだった。
米・中の覇権争いは、中国の国力が2位に浮上した時から不可避なものだ。2012年ごろから、経済的な側面だけでなく軍事的側面が加えられた。米国は今年の6月、太平洋司令部を「インド太平洋司令部」と名称を変えた。
トランプ米大統領の先月のヨーロッパ訪問(7月11~16日)は、米国の戦略がどういう方向に変わるかをよく示している。トランプ大統領は、米国がNATO(北大西洋条約機構)の国防費の3分の2を負担していることを挙げ、NATO加盟の国々を、なぜ米国にばかり依存するのかと批判、国防費を今の2倍にするよう圧迫した。特に、ドイツに対してロシア産ガスの大量輸入に不満を示し、テレサ・メイ英国首相にはEU(欧州連合)からの完全な脱退を促した。
米国の既成権力、特に主流メディアなどは、トランプ大統領を激しく批判した。理由は、トランプ大統領が米国の最も重要な同盟国(NATO)に対しては荒く敵対的に対しながら、米国の敵であるロシアには、あまりにも温かく対したということだった。
トランプ大統領は、米国の既成権力を代弁する大多数の政治家たちとは違う観点でEUを見る。トランプは、欧州(EU)はもはや西欧的価値を守るには無気力で、官僚的権力を無慈悲に追求する勢力と見なしている。イスラムを無分別かつ過度に受け入れたヨーロッパは、伝統的な価値観を裏切り、アイデンティティーを失った社会であると失望と怒りを隠さない。

米国はいつまで欧州の同盟 国か

トランプ大統領の主な言動は、米国内の著名な現実主義国際政治学者たちの「米国はヨーロッパを同盟国と見なすべきか、そしてロシアを敵と見なすべきか」という主張と一致する。ミアセイマー教授らは「米国はもうドイツから手を引け」とまで主張(Foreign Affairs 2017・78月号)した。同氏は「ロシアはドイツを攻撃できるほど強くなく、ドイツはロシアに征服されるほど弱くない」と指摘し、米国がドイツから地上軍を撤収する時が来たと主張した。実は、ヨーロッパの国々はドイツが統一されるとき皆、反対した。
トランプ大統領が推進すべき外交政策の方向を提示したミルズ(Daiel Quinn Miills)とローズフィールド(Steven Rosefielde)教授は、「(1)世界が多極世界になったことを認めよ(2)米国国内の福祉を最大化する外交政策を維持せよ(3)膨大な核兵器を維持しているロシアと第2の冷戦をせず、cold peaceを維持せよ(4)イランの野望を制御せよ(5)中東地域での国境線の再編を受け入れろ(6)中国を封鎖すること(7)日本を強化すること(8)インドを強化すること(9)ヨーロッパがいかなる方向へ進んでも放って置け、仮に欧州が崩壊しても。その理由はヨーロッパが果たして米国の同盟国なのかわからない(10)高品質の製品を生産する米国の企業を維持、保存するため貿易政策を変更させよ」である。
トランプは、これらの主張をほぼ受け容れていると見られる。トランプは、大統領になってから米国の利益を強調したが、お金のためではなく、巨視的、戦略的目標を持っている。今、経済力をもって中国の挑戦を牽制すれば、米国は覇権国としての地位を維持できると見る。
国際政治は国家間の力を分析することだ。まず、ロシアが米国の敵手になれない理由は、(1)人口統計学的に毎年50万人ずつ人口が減り平均寿命もそれほど延びていない(今の傾向では30年後、人口の4分の1が減る)(2)人種や宗教的葛藤(3)膨大な人口の中国と隣接している(4)破綻状態のロシア経済のためだ。ロシア経済が決定的な打撃を受けたのは、14年から米国のシェールオイルの生産で、ロシアが依存する石油価格が暴落したためだ。
資金がないと軍事力は維持できない。ロシアの17年の経済規模は、韓国よりも小さい1兆5274億ドルで、米国(19兆3906億ドル)の7・9%に過ぎない(IMF資料)。中国は12兆146億ドルで、米国の62%の規模だ。したがって、ロシアが米国の覇権に挑戦するのは不可能だ。

米国の目標は覇権の維持

トランプ大統領がロシアを戦略的に活用する目的は、米国の覇権に挑戦する中国を牽制するためだ。今、経済力で牽制できる中国を放置すれば、将来的に軍事力を使用せねばならなくなる。
だが、米国の既成権力層(政治家やメディアを含む)は、パラダイムの変化に適応できず、固定観念に捉わられてトランプを非難する。トランプの政策が分かるためには、米国の国内政治への理解が必要だ。
トランプは戦略に深い造詣がある。トランプが推薦する10冊の本は、一番目が「孫子の兵法」(戦わずに勝つ方法)、第二が「君主論」(マキャベリ)、第三は「信念の力」(自分のメンターであるノーマン・ビンセント牧師著)、第四はアインシュタインの本、第五はエマーソンが書いた教育に関する書籍、そして第六から残りの5冊がすべて中国に関する本だ。
米国は戦争を国家政策のための手段として考える国だ。建国以来、米国が戦った主な国々を見てみよう。米国は、英国(独立戦争、1812年)、スペイン(1898年)、ドイツ(第1次世界大戦、第2次世界大戦)、イタリア(第2次世界大戦)、日本(第2次世界大戦)、ソ連(韓国戦争、東西冷戦)、中国(韓国戦争)などと戦争をした。同時に、米国はフランス(第1次世界大戦)、日本(第1次世界大戦)、ソ連(第2次世界大戦)、イギリス(上記の二つの戦争を除く)、中国(第2次世界大戦)、オーストラリアなどとは一緒に戦った。
米国の国際政治において、北韓問題は基本的に大きな部分ではない。米国の基本的目標は、覇権を維持することだ。テロリズムの問題があったが、テロリズムは米国の国家利益の本質的な問題ではなかった。今、テロが解決される段階に入るので、中国の挑戦が最も大きな問題だ。
中国の挑戦こそ、米国の実存と覇権に対する脅威だ。このため、トランプ大統領は、伝統的な勢力均衡の観点に立って、ヨーロッパをどう取り扱うべきかを考えねばならないのだ。
今は、国際秩序が再編されている時期だ。米国の世界戦略が歴史の分岐点を越えて新しい方向に進む状況と思う。トランプは宇宙軍の創設を宣言(6月18日)した。米国の核戦略に大きな変化が表れる可能性は大きい。
ポーランドは、自国内に米国の永久駐留を要請した。米国防総省は、積極的に検討すると答えた。米軍のポーランド駐留は、ドイツの米軍が移動すれば良い。国際政治の本質は、状況が変われば、敵と味方が変わるということだ。トランプは東西冷戦のときの同盟観をぶち壊そうとするのに、人々は過去の思考に安住する傾向がある。
トランプがヘルシンキでプーチンと行った会談(7月16日)は、ニクソン・ドクトリン(1969年7月25日)と似た点がある。トランプのロシアに対する戦略は、「21世紀版のニクソンドクトリン」と言えるかも知れない。同盟は親しいからではなく、怖い敵を共有するとき結ぶものだ。
中国を想定した米国ロシア同盟が、なぜ考えられないのか。トランプは、この作業のためヘルシンキへ行ってきたと思う。
プーチンの東方政策を利用するトランプの大戦略は、ニクソン・ドクトリンを21世紀に適用するものと見られる。国際政治に変化をもたらす、ニクソンの大戦略に匹敵するかも知れないと思われる。敵の味方を適時に素早く変えるのが国際政治戦略であり、外交だ。トランプはプーチン(ロシア)が衰退して死ぬのを放置できない。

中国の牽制に北韓を活用する米国

北の核問題について「非核化」で進展があるなど混乱した報道が伝わるが、米国は中国を牽制するためロシアを活用し、北韓も中国を牽制するため活用していると思われる。
私が11年前、金正日の存命中に発表した内容だ。
「米国において北韓問題を最終的に解決するというのは、北韓がこれ以上、米国を脅かすテロ支援国でなくすることだ。北韓が米国を脅かすテロ支援国でなくすることでの下策は、北韓の核を除去することで、上策は、北韓を米国の味方にすることだ。米国の対北政策の中で上策がまさにレジームチェンジであり、これには金正日政権が崩壊すること、金正日政権が米国にこれ以上敵対的でない政権に変わること(リビア式)など、少なくともに二つの方法があり得る。米国は、金正日政権が反米を放棄すれば、そして米国の利益に奉仕するなら、そのレベルで既往の問題を終結させることもできる」(07年4月)。
韓米相互防衛条約の第6条は、「この条約は、無期限に有効である。どちらの締約国でも、他の締約国に通告してから1年後、この条約を終止させることができる」韓国はこの条項を修正するため1年間、米国側と交渉したが、米国は応じなかった。これが米国の外交原則だ。

 李春根博士/延世大学を卒業。米テキサス州立大学政治学博士、オハイオ州立大学博士課程修了。世宗研究所研究委員、自由企業院副院長、韓国経済研究院の外交安保研究室長、韓国海洋戦略研究所主任研究員、梨花女子大、淑明女子大などで兼任教授。著書に『米中の覇権争いと韓国の戦略』『21世紀の韓米同盟関係』など多数。

 

2018-08-15 3面
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