Jリーグなどサッカー業界では、監督・コーチと選手たちの間で活躍するサポートスタッフ(用具係など)がチームを支えている。スパイク管理を専門に扱う”ホぺイロ”を務める在日韓国人3世の馬康洋さんは、自身の仕事の意義について語った。また”ホぺイロ”の仕事が本格的に導入されていない韓国Kリーグの現況に対し、自身が先達となりたいという夢を語った。
馬康洋・名古屋グランパス〝ホペイロ〟スタッフ
愛知県在住、大阪府出身の在日韓国人3世の馬康洋(日本名・谷川康洋)さんは高校までの学生時代、一貫してサッカー部に所属。知人から紹介を受け2014年6月、名古屋グランパスエイトに入社。スタッフとしてJリーグを支える今の仕事を始めるに至った。
Kリーグには余り根づいていない”ホぺイロ”の仕事について、「選手が子ども、監督・コーチが父とするなら”ホぺイロ”ほか用具係・メディカルスタッフなどは母に当たる存在」と馬さんは語る。
毎日30足あまりの選手たちのスパイクを洗浄、当日のゲーム環境や個人の好みにも細かに対応できるよう数十色の替えひもを持ち歩き、ロッカールームをみれば選手たちの頭の中や現在のメンタルが見通せるという馬さんは、まさに選手たちの母親的な存在だ。選手たちとの日常的なコミュニケーションだけでなく、監督・コーチに対しては選手ごとのコンディションをさりげなく伝え、双方の意思疎通に一役買っているという。
名古屋グランパス時代に、ある先輩スタッフとの出会いによって、Jリーグでのプロスタッフの仕事を開始、当初は選手たちのユニフォーム管理を担当する”エクイップ”として仕事を学んだ。馬さんによると、「資格もマニュアルも存在しないスタッフの仕事は、先輩の動きを”見て、盗む”のが一番の近道」としている。恩師の縁により、徳島ヴォルティスや京都サンガF.C.でもスタッフとしてのキャリアを積み重ね、両チームの在籍中にはチーム優勝・J1へのリーグ昇格の場面に立ち会ったという。運気を呼び込むような人柄の良さを、馬さんは取材でも感じさせてくれた。その後、また縁があり名古屋グランパスに戻ってきたという。
本紙記者からの「在日の出自が仕事の役に立っているか」との質問に対し、馬さんは「Jリーグの世界で働く外国人は大勢いる。在日韓国人と説明しても分かってもらえず、『なぜ韓国語が話せないのか』と質問されることも多い。そのような環境でむしろ、自分の存在を知ってもらったところから在日という存在に気づいてもらえるように、様々な人間関係を大事にして仕事をするように心がけている」とした。
馬さんは、「若い世代のサッカー好きな在日のためにも、”ホぺイロ”のような仕事があり、選手だけでないプロサッカー業界との関わり方があることを知って欲しい」とした。また、「まだKリーグにはないプロスタッフの文化をいつか本国へ持ち込みたい希望を持っている。日本でまだまだ”ホぺイロ”のほか習得すべき技量を磨く必要はあるが、いつか日本の文化を韓国に伝えることが在日としての夢」であると、期待を込めて語った。
 | | 10日、豊田スタジアムで行われた名古屋グランパスのホーム戦では、馬康洋スタッフの〝ホペイロ〟としての仕事ぶりを窺うことができた(cN.G.E.提供) |