自分の過ちを他人になすりつけて大衆を欺くのが、平壤政権の一貫したやり方であった。
平壤政権はかつて、1957年にすべての土地の国公有化を宣言し、社会主義経済の輝かしい未来を約束した。59年には、千里馬の国、楽園の祖国と宣伝して9万3000人の在日同胞を誘引し、これを主に単純労働力として生産現場に投入した。
しかし80年代には、韓国の飛躍的な経済発展とは対照的に、北朝鮮の生産はすべての分野で停滞した。その理由の第一は、国公有化による労働者の生産意欲の後退であり、第二は、経済全体を独占した権力の恣意的な「計画」と腐敗であった。
人々は積極的に働かなくなり、権力者たちはでたらめな目標に人々を動員しながら、自分たちは贅沢な生活を続けたのである。
平壤政権は、自分たちの失敗を米国と韓国のせいだと住民に向かって説明し、それを理由に社会の統制をますます強化した。また、政権維持のために核兵器と弾道ミサイルの開発に熱中した。
1991年、平壤政権は「南北基本合意書」と「半島非核化宣言」を韓国の盧泰愚政権との間で調印した。南北の関係を平和的に発展させ、半島を非核化することを約束したものである。
この約束に従って、翌92年には韓国に配備されていた米国の戦術核兵器が撤去された。だが、平壤政権はひそかに核兵器の開発を続けた。半島における軍事的危機の責任は全面的に平壤政権にある。
狙いは米軍撤退
平壤政権の主張する「休戦協定の平和協定への転換」の狙いは、米軍撤退にある。
米軍が撤退すれば、1950年の「6・25動乱」の時と同じく、平壤政権は必ず南を攻撃するであろう。
南北間の平和は、当面、韓国の安全保障体制の強化にかかっている。
韓国の軍事力は防衛的だが、北の武力は本質的に攻撃的である。韓国側がすきを見せれば、かならず飛びかかってくる。
北の軍事力が攻撃的であるのは2つの理由による。
第一は、北の体制理念が「唯一思想」による「国土完成」として攻撃的に立てられているためであり、第二は、北の経済体制が非生産的で自足できず、つねに外からの支援や収奪を必要としているからである。
そもそも、金王朝が支配する北朝鮮は建国以来、経済的に自立したことが一度もない。中ソからの援助や国際社会の人道支援によって支えられた「援助漬け」の国家であった。「自主」を看板にしながら、住民の生活のことは外国にまかせっきりなのだ。
彼らの攻撃的行動の根拠になっているのは「唯一思想」「主体思想」である。だが、その「唯一思想」なるものは単に唯一の指令体系に全体を従属させるというだけの、要するに全体主義の一形態であって、大衆が主体だとしながら大衆を愚民化し、奴隷化するものであった。
平壤政権のいう「対米平和協定」は、平和をもたらすものではなく、戦争をもたらすものである。
内部で血なまぐさい粛清劇を繰り返してきた彼らは、米軍が撤退して韓国の安全保障体制がほころびれば、自主的民族統一を名分にして必ず攻撃してくる。
危険な融和政策
韓半島の現状を打開する唯一の道は、韓国の安全保障体制をしっかりと強化することのほかにない。平壤政権に韓国を攻撃できると絶対に思わせないことである。
韓国の対北政策の基本は「是々非々」であった。北の一方的な要求には決して応じず、北の変化に応じて支援することである。だが、北が核兵器と弾道ミサイルの開発を続けている間は、いかなる「交渉」も「支援」もあり得ない。
かつてヒットラー政権に対する連合国側の「融和政策」が、第2次世界大戦をもたらした。初期にヒットラーの攻撃的な全体主義をしっかりと封鎖していれば、悲劇は避けられた。だが連合国の一部は、適当になだめておけばそのうちに丸く収まると考えた。そのために事態は最悪の方向に進んでしまった。
住民に対して、また世界に対して、平壤政権は本質的に攻撃的である。この全体主義権力のわがままを許せば、わが民族は滅亡する。だが、わたしたちがこの最後の危機を越えるなら、その向こう側には祖国統一の日が待っている。
(金一男・韓国現代史研究家) |