北韓の「水爆実験」と長距離弾道ミサイル発射を受けて日本政府が科している対北独自制裁により、朝総連系の要人たちが北との往来を禁じられた。対象者は22人。そのうち5人が科学技術者といわれる。今まで陰で核やミサイルなど北韓の軍事大国化を支えてきた知られざる人物たちの一部だ。
日本政府が初めて北との人的往来に制限を設けたのは06年。北韓の最初の核実験を受け、平壌の「最高人民会議」の代議員(国会議員に相当)だった朝総連幹部などが制裁対象となった。14年のストックホルム合意で解除されたが、今回の制裁で22人が、北韓を渡航先とした場合には再入国を認められないことになった。
22人に拡大された制裁対象者の中には、北の核・ミサイル開発にも深く携わってきた人物が含まれている。複数の関係者によると、朝総連傘下のスパイ組織である在日本朝鮮人科学技術協会(科協)のメンバー5人だ。
日本政府は対象者が誰かを公表していない。制裁対象の本人にも、科協にも伝えていないという。関係筋によると、対象者は訪朝の出国の際に空港で再入国許可が下りないことが伝えられる。
5人のうち、関係者の間で具体名が上がっている人物は3人。まずは科協の顧問を務める80代のA氏だ。
A氏は東京大学を卒業後、大学の関連研究所に入り、ロケットなどにも使われるエンジンの研究で優れた業績を残した。国際的にも認められ、今も北韓当局と総連の合弁会社(本社・元山)の事実上のトップを務めているという。同社は北韓のミサイル開発に携わっており、A氏はいわば、「北韓のミサイル開発の父」とも呼べる人物だ。
A氏の後輩にあたるB氏は、過去のミサイル発射実験の際にたびたび訪朝していたことが明らかになっている。両者は兄弟ともいわれ、大学や研究所も同じだった。B氏もA氏と同じ合弁会社に籍を置いている。
もう一人が、京都大学に置かれた原子力分野の最先端施設で研究をしている科学者C氏だ。ロケットやミサイルは東京大学、核技術は京都大学と、いずれも日本を代表する国立大学で得た科協メンバーの知識や技術が、北韓の核ミサイルに活用されているのは明らかだ。
韓国の専門家は「科協は、北韓の科学技術全般、特に軍需工業に最大限の貢献をしてきた。そのため平壌の労働党も彼らを厚遇している」と話す。科協はこれまで、軍事に転用可能な機械や物資を不法に北へ輸出して、複数の関係者が家宅捜索を受けた。
だが、問題は科協だけでない。制裁対象と思われる人物たちは、いずれも国立大学や関連研究施設に身を置いていた。所属機関の上司や同僚は、彼らの専門知識や技術が大量破壊兵器の開発と製造に利用され得ることを知っている。科協メンバーが訪朝したことも把握していたはずだ。科協のメンバーたちの中には、対南工作にまでかかわった者もいる。
日本政府は現在、朝鮮学校がある自治体に対し、補助金の交付を自粛するよう周知させる方針を固めている。北の核・ミサイル開発への制裁だが、それを間接的に助けた研究機関には何も科していない。
科協メンバーとはいえ、優れた能力と立派な研究実績を持つ貴重な人材だ。彼らが自由社会で活躍できず、封建独裁体制の手先になってきたことに対して惜しむ声もある。暴圧体制に仕えて韓国と日本、自由世界の安全を脅かしてきた科協のメンバーではあるが、”前科”を反省すれば新しい活躍の機会を与えられるべきだ。 |