金成昱
自由統一への最も大きな心理的障害は「統一費用」だ。「統一費用」は言う人によって概念と金額がまちまちだが、大体50兆から4,000兆くらいと推算される。
例えば、▲大統領直属の未来企画委員会は、2010年統一費用を「北韓住民の1人当り所得が南韓水準に大きく遅れないようにするのに必要な費用」と定義し、急変事態による統一の場合は2040年まで2兆1,400億ドル(2,525兆ウォン)、漸進的統一の場合は3,220億ドル(379兆9,600億ウォン)に達すると発表した。▲米国ランド研究所は、2010年統一費用を「北韓地域のGDPを統一後4~5年内に2倍に増加させる費用」と定義し、500億~600億ドル(55兆8,500億ウィン~67兆ウォン)に達すると推定した。▲ゴールドマンサックスは、2000年に統一費用を「南・北韓が均等所得になるのにかかる費用」と定義し、10年間3兆5,000億ドル(3,910兆ウォン)が掛かると推測した。
「統一費用」が仮に5,000兆ウォンほど掛かるなら統一は災殃だ。国民負担や財政危機はもちろん、米・日など国際社会の支援があっても対外依存を深化させ社会全般を歪曲させる。
2.統一費用? 奴隷解放もしないというのか?
だが、統一費用は概念そのもそに深刻な問題がある。
ドイツは、統一費用の80%を東ドイツ住民への年金、失業手当のような社会福祉費用に使った(出処:平和問題研究所の「ドイツ統一を正しく知る」*左写真)。北韓は、東ドイツと違う。自由統一は、飢えて死に、殴り殺され、凍って死ぬ北韓同胞を「解放」することで意味を持つ。ドイツのように北韓住民に天文学的な福祉費を注がなくても自由統一はそれ自体で道徳的だ。年給や失業手当のようなものは、「解放」の後、2次的・3次的・4次的課題だ。時間を持って能力ができたらやることだ。
統一費用のために統一を憚る主張は、例えば、植民地治下の朝鮮人の暮らしを向上させるためお金が多く掛かるから解放してはならないとか、監獄の中の人を出所後どう食べさせるか困るからそのまま置かねばならないという話と同じだ。
自由統一は、植民地時代よりも酷い暮らしの、監獄の中で蹂躙され劫略されている北韓同胞を解放することだ。生き地獄から人を救い出した後、国家がやるべきことは、北韓住民が暮らす道を助けることであって、暮らす道を全部作ることではない。当面、北韓政権が武器開発や武器輸入に使う50%に近い予算、金日成と金正日偶像化に使う40%の予算だけをまともに使っても、北韓は一定軌道に乗る。飢えて死に、殴り殺され、凍って死ぬ人々が無くなり若干の余裕ができるだけで北韓も生きられる地になる。
3.投資性の支出は一種の「投資」の概念
「統一費用」の主張を見ると、如何にすれば費用を膨らませるかを悩んだように感じられる時も多い。統一費用は、消滅性支出と投資性支出に分けられる。前者は回収されず消えるお金で、後者は物的価値が消えても新しく財貨や用役(サービス)を生み出すお金だ。
「消滅性」支出は、「緊急救護費用」をはじめ、「制度統合費用」(政治的に統一に合意した後、制度的統合が進行される初期段階で必要な費用)などがあるが、統一費用はこの消滅性支出だけを指すのが正しい。投資性支出は、一種の「投資」の概念であるからだ。
故黄長燁先生(*左写真)も、「統一すれば、市場経済を導入すると同時に北韓の人々の人的移動を統制し、毎年100万トン程度の食糧を提供すれば、10年内に南韓の70%水準に近接できるはずだから、統一費用を別途に計算し心配する必要がない」と言ったが、これがまさに消滅性費用だ。したがって、北韓解放の後既存の人道的支援さえ一定期間持続すれば、別 途の統一費用は必要ないという計算も可能だ。ソウル大学統一平和研究所の金炳魯研究教授も、2010年10月20日「南北協力と統一費用、どう準備すべきか」という題のフォーラムで、統一平和研究所の4年間の世論調査結果を土台に黄長燁先生と同じ趣旨で発表した。
ここで北韓住民に基礎的生計を保障することからもう一歩進んで、解放以後北韓住民の願い(?)だった「白いご飯に肉のスープ問題」を解決するにはいくらぐらいのお金がかかるだろうか? 2010年12月、国会立法調査処が発刊した「韓半島統一費用、争点と課題」という論文(*下の写真)によれば、「北韓住民たちの期待水準が高くない」という点を指摘し、「白いご飯に肉のスープ問題を解決するには、大韓民国のGDPの1%程度で済む」と書いてある。
投資性支出は、北韓再建に投入される「新国家建設費用」と言える。これは時間をかけてわれわれの能力に合うように、国民的合意に基づいて進めることだ。
4.分断費用:統一費用= 1兆3,123億ドルvs 8,577億ドル
「統一費用」の計算で考慮すべきもう一つの重要な要素は、「分断費用」だ。統一費用が大き過ぎて自由統一を憚るのでなく、分断費用がもっと大きいから一日でも早く自由統一をすべきだという要旨だ。
「分断費用」は、「国家が分断された状態のため生じる一切の機会費用(opportunity cost)」と定義され、明示的費用(explicit cost)と暗黙的費用(implicit cost)に分けられる。前者は過度な軍事費支出をはじめ、大陸と草原に向けての通路が遮断されて生じる運送費など、不必要な物流費用と航空費用(ex. ソウルで東北3省を直線飛行ができないため発生する費用)などが挙げられ、後者は天安艦爆沈と延坪島砲撃などで生じる人命殺傷など計り難い費用をはじめ、南北対峙による韓国経済の低評価(Korea Discount)や軍兵力を産業へ活用できないための費用など多様だ。
軍事費の支出は、適正水準より30~50%ほど過度に支出されると言われているが、これはGDP対比1.5~2%に達する。この他にも境界地域への管理費用、在外公館や外交推進費用の重複、離散家族問題および有形無形の安保不安感と戦争恐怖感、北韓の核問題などで強いられる費用などがここに含まれる。
統一費用は、時間が経てば消滅する限時的費用だが、「分断費用」は統一するまで持続的に掛かる。「国会予算決算特別委」が2007年作成した「統一費用と統一便益」という論文によれば、2015年、2020年、2025年、2030年に各々統一する場合の分断費用と統一費用は、それぞれ1兆3,123億ドルvs 8,577億ドル、1兆4,931億ドルvs 9,912億ドル、1兆6,837億ドルvs 1兆1,589億ドル、1兆8,886億ドルvs 1兆3,227億ドルが所要と推算した。一言で統一費用が多いと言っても分断費用はもっと掛かるいうことだ。
5.統一費用、働き口の創出の統一利益がもっと大きい!
南・北韓の統一は、莫大な統一費用よりも遥かに莫大な統一利益をもたらす。統一利益は、「統一後得られる政治的・社会的・軍事的・安保的・経済的次元の利益」の総合である。分かり易く言って、消える「分断費用」に付け加えられる利益を総合したものだ。
「統一費用と統一便益」の論文と国会立法調査処が2010年12月作った「韓半島の統一費用、争点と課題」などの論文によれば、2015年~2030年統一すると仮想した場合、統一費用は10年間GDP対比6.6%~6.9%だが、統一利益はGDP対比11.25%の経済成長をもたらすと分析した。これは統一時期が早いほど経済的負担が減ることを意味する。
「自由統一」は、2.2倍の国土はもちろん、人口が7,200万人になってフランス(6,400万)や英国(6,000万)を追い越すことになる。「分断リスク」が取除かれ、国家信認度の上昇を通じて株価や企業の資産価値も上がる。TKR・TSR・TCR・TMR・TMGRの連結(*右写真)で象徴される物流流通費の減少はもちろん、統一韓国が東北アジア経済協力のハブ(hub)になる。
自由統一の最大の利益は、北韓を新しい軽工業基地にする再建と特需にある。例えば、韓国が輸出ドライブ政策をかけ始めた1965~72年、毎年約27万の働き口が創出され、重化学工業建設が本格化した1973~79年間は毎年約44万の働き口が新しく創出された。自由統一後、規模の経済(economics of scale)が実現されて「北韓特需」が本格化すれば、北韓でも年間最小20万~40万の働き口が作られるという論理も可能だ。韓国の発展の先例があるためこれは夢でない。
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