8月17日午後、北韓軍所属のミグ21戦闘機が中国遼寧省の撫順県・拉古郷に墜落した。墜落地点は、事故機が所属する部隊の基地(北韓北西部にある新義州市)から北方に200キロメートル離れている。中国でも奥地に属する地域だ。
北韓と中国政府はともに、戦闘機墜落については公式に認めている。しかし、経緯については口を閉ざしたままだ。中国外務省は事故当時「国籍不明の小型飛行機」が墜落したと明らかにしただけで、それ以降政府からはいかなる発表もされていない。
中国当局は事故後速やかに報道規制を敷いたが、墜落機の機体は一部市民らのカメラに収められていた。そこに映し出された映像を見ると、墜落機の胴体後方には青と赤の円の中に赤い星が描かれていた。紛れもなく北韓軍の戦闘機だったことが確認された。
操縦士は30代と見られる男で、発見時にはすでに死亡していた。
一般的に、訓練中の戦闘機には2人が乗りこむようになっている。これを根拠に一部の外国メディアは、パイロット以外の同乗者が落下傘で脱出した可能性に言及している。姿を消した人物がいるとすれば、北韓の高官である可能性が高い。軍事専門家は、ミグ21は1人乗りの戦闘機として運用されることが多く、2人が乗るスペースはなかったはずだと反論している。
事故翌日の18日、中国官営の新華通信は中国当局者の言葉を引用して「事故幾は機械トラブルで中国領空に誤侵入して墜落した」、「北韓が中国に謝意を示した」と報じた。
しかし、報道された「機械トラブル」説の信憑性は低い。
戦闘機が機械トラブルで中国領空に入って、200キロメートルも航行するのは不可能に近い。世界的に見ても、機械トラブルを起こした戦闘機が、他国の領空深くまで飛んで墜落したケースはないという。
北韓軍の戦闘機が領空を「大きく」脱した例は過去に一度だけあった。1983年2月25日、当時北韓空軍の上尉(大尉)だった李雄平が、ミグ19機の編隊から離脱して、西海北方の境界線を越えて帰順したケースだ。
現在北韓でもっとも特権を享受する職業は軍人だ。軍人への食糧の配給は滞ることがほとんどないため、食料を得る手段としても軍人は魅力的。なんとしても職業軍人になりたいというのは、北韓住民に共通する望みだ。
中でも別格の高級待遇を受ける軍人が空軍飛行士だ。仮に墜落死した軍人が脱北を試みていたとすれば、単純な事故と結論づけるには不可解な疑惑が次々と出てくるだろう。
北韓は戦闘機の墜落こそ認めたものの、なぜ事故機が中国の奥まで進入したかは明らかにしていない。
したくてもできないとすれば、この事件は住民の不満が軍にまで広がっている証左になるだろう。 |