李春根
筆者は先月(6月29日)韓国経済研究院へ寄稿した北韓の西海挑発事件に関する文で次のように結論を結んだことがある。
「慌てた北韓の統治勢力は、自分たちの権力維持のための最後の手を打ち始めた。2010年に入ってから全く推し量れないほど揺れた北韓の対南および対外政策は、結局天安艦撃沈事件という自分の首を絞める措置を取ってしまった。北韓の武力挑発行動はアメリカの空母と潜水艦が西海に進入できる正当な根拠を提供し、これは今まで国際社会の非難に我慢しながら北韓の存続を支援した中国を怒り捲るようにさせるだろう。」
天安艦事件に対する膺懲措置の一環として、韓米両国は西海で大規模の韓米連合海軍訓練を実施する予定だ。本来6月末か7月初めに実施する計画だったのが繰上げられそうになってから、また訓練期間が遅れている。米国は核潜水艦および空母まで動員する訓練を計画している。
ところが、西海で行われる韓米連合海軍訓練に最も激しく反対したのは北韓でなく中国だ。すでに韓国のメディアらが詳しく報道したが、中国側の韓米合同西海訓練に対する立場と態度は、怒りと憂慮はもちろん、虚勢と絶望の様子までも見せている。
米空母が西海に進入すれば中国海軍の標的になるという虚勢から、大韓民国が間違っているという脅迫に至るまで、最近中国が見せる態度は、それこそ「怒りに震え捲る姿」、まさにそのものと言わざるを得ない。
中国がこのように憤怒する姿は、まず米航空母艦と核潜水艦が西海の北側深くまでくるということは、戦略的に見て到底我慢できない脅威であるからだ。「中国の生命線」が通る海路がまさに西海を通っており、中国の戦略的核心地域(strategic center of gravity)がそのまま西海と続いている所であるためだ。
歴史的に見ると西海を制覇した国が東アジアの覇権を掌握した。中国は1894-1895年日清戦争で敗北したことで日本に朝鮮に対する宗主権を奪われたことがあるが、当時清の海軍が日本海軍に侮辱的に敗北した所が、まさに西海の忠南、牙山沖の豊島付近で行われた海戦だった。豊島海戦で勝利した日本は、すべての地上戦闘で清を制圧した。
このように清を制圧した日本は、1904年日露戦争の時再び西海に面している大連、旅順戦闘でロシアを制圧したことで名実共にアジアの覇権国に浮上した。
1990年代の初期、ソ連をはじめとする西欧の共産主義勢力が完全崩壊した後、アメリカは新しい世界に適応するための新しい軍事戦略を樹立した。1890年マハン提督の「海軍力優位論」が発表されてから100年間、米国の海軍戦略は海上で(On the Sea)勝利することで世界の通航権を確保することだった。米国は結局ソ連を制圧し、それ以上海上で米海軍に挑戦する勢力はなくなった。
冷戦終息後1994年に発表された新しい海軍戦略は、その報告書の題名(From the Sea、つまり海から)が物語っているように、今後米海軍は海から他国の陸地を直接攻撃することに力点を置くように変わるようになった。
アメリカ海軍が現在計画中、あるいは建造中の先端軍艦らはほとんど沿岸海域で作戦するのに適した軍艦だ。米国が念頭に置いた新しい海軍戦略の相手国や海に、中国と西海(黄海)が含まれるのは確かだ。
中国が米空母艦の西海への進入に激しく反対しているが、すでに1994年10月米航空母艦キティホーク号をはじめ、巡洋艦および駆逐艦などが西海深く航進する訓練をやったことがある。
当時、中国政府は怒りに歯ぎしながら、次に米軍艦が再び西海に進入すれば実弾を発射すると威嚇もした。もちろん、米国は中国のこのような威嚇におじけづかなかった。
米国は台湾で選挙があるかチベットで騒擾が発生する場合、あるいは、恣意的に台湾海峡付近、東支那海付近に空母船団を随時派遣した。2008年の春一度に3隻の空母を台湾隣接海域に派遣したことがあったが、その理由は、アメリカ側の言葉を借りれば、「独裁国家の中国が、民主国家の台湾の選挙を妨害するかも知れないため」だった。
このようにアメリカが中国の立場を無視して空母戦団を随時中国隣接海域に派遣するのは、アメリカの海軍力が中国の海軍に比べて圧倒的に強いからだ。大韓民国海軍参謀総長を歴任したある予備役海軍提督は、筆者や他の専門家と夕食の席で、「私見だが自分の考えでは中国海軍はこれから100年が経っても米海軍を追い付けない」とまで言った。
米海軍が西海に関心を持つ理由、そして中国が西海での韓米連合訓練にあのように気を遣う理由は、アメリカが西海を成功的に封鎖する場合(例えば、山東半島と韓半島のある地点を連結する線を封鎖線として画定する場合)、北京を中心とする中国の北部地域が「戦略的」に「痲痺」( Freeze)するためだ。
それで中国は西海と北韓を非常に大切にするのであり、アメリカもまた、この地域に対して戦略的関心を持たざるを得ないのだ。
そういう地域で北韓が火遊びをしたのだ。韓米連合の西海海軍訓練は、まさに北韓のならず者の行動を膺懲するのが目的だ。中国が、真に韓米合同海軍訓練を恐れ、韓米合同海軍訓練を中止させたいなら、中国自ら北韓の挑発行動を進んで断固として膺懲すれば良いのだ。
韓国政府が、中国の韓米合同訓練への非難に少しでも怖気づくか萎縮してはならない。7月8日現在、ロシアはシベリアで相当規模の軍事訓練を行っている。中国との軍事力均衡において圧倒的に不利なシベリアを、如何なる場合でも放棄しないというロシアの意志が反映された訓練だ。
中国は、シベリアで行われるロシアの軍事訓練を、西海での韓米合同海軍訓練のように反対したのか?
さらに、中国は最近自国の軍艦を、黄海を経て韓半島の南を通過し、東海を北上して日本の北海道と本州の間の津軽海峡を通過する航海訓練も行った。
軍事訓練は主権の問題だ。しかもわが国は中国が積極支援する北韓側の魚雷攻撃で軍艦が沈没されて46人が戦死した直接被害を受けた国だ。
西海がまた世界の関心事に浮上している。今回の事態を契機に、われわれは米国と中国が果たしてわが国にとって何を意味するか、西海が大韓民国の国家安保および21世紀の世界覇権競争で占める戦略的意味が何なのかを、より冷然とした戦略的視点で眺めるよう努力せねばならない。(2010年7月8日作成)。
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