張真晟(脱北詩人、「私の娘を100ウォンで売ります」の著者) この頃ネチズンの間で「わが家自慢」という題名の北の美貌の女子大生(*朴・ジンジュ)が話題だ。国から与えられた家の自慢を素材にして南韓の貧富の格差を批判する目的だが、そういう内容などと関係なしに目立つ美貌のためネチズンらの関心を引いた。 貧しい国で暮らす娘の顔としては肌が余りにも澄んでヘアースタイルも南韓風だったため、一部のネチズンらは操作したものを主張したが、私が見るには北韓で製作された動画である。それも、わが南韓のように個人がいつでもユーチューブに載せられる単純な動画でなく統戦部(統一戦線事業部)が製作したものだ。 その根拠は、まず制作したのが「6.15編集社」であることだ。「6.15編集社」は、私が北韓にいた時勤めた「労働党統戦部」所属機関の偽装名称だ。もっと正確に言えば、金大中の「太陽政策」を逆利用する戦略次元で、第1次南北首脳会談の日付を「統戦部」傘下の「101連絡所」と「26連絡所」が、そのままが共同で使う対外名称なのだ。 また、動画では女子大生が平壌教員大学の学生といったが、私が見るには彼女もやはり「統戦部」傘下の「26連絡所」の「北極星」要員ではないかと思われる。「北極星」とは、過去「26連絡所」が運営した「七宝山電子楽団」の後続名称だ。 1970年代に作られた「七宝山電子楽団」は、当時南韓の反政府および民主化運動を扇動する内容の「運動圏歌謡」や南韓の流行歌などの歌詞を改作するバンドである。 そのようにして作られた歌謡らを「救国の声放送」を通じて南韓に伝播したが、その後、その存在が一般に知らされるや名称を「北極星」に変えたのだ。動画の女主人公を「北極星」要員と思う理由は、北韓の一般女性にとっては不法と看做される彼女の目立つ最新のヘアースタイルだ。 閉鎖的な北韓では、服や髪まで個人の思想的表現と見なされる。しかも、強力な統制社会では宣伝物に登場する人物はすべての面で厳格に典型化される。だが、対南工作部署の統戦部だけは例外だ。その中でも特に「救国の声放送」の機能を対南インターネット謀略へ切り替え、今も対南心理戦の遣り方を開発し続けているこの「26連絡所」のスローガンは「現地化」である。 対南心理戦の専門家になるためには、制限された業務環境の下、南韓の人々のように考え、行動しろという要求なのだ。それで、統戦部は「平壌の中のソウルになれ!」という金正日の言葉を業務上信条としている。この「北極星」要員らは、対南心理戦だけでなく、訓練された専門性を生かして対北(対内)心理戦も行っている。 2002年まで北で住んだ脱北者ならは誰でも知ることだが、北韓中央TVでは「日の出ビデオ」という番組が放映されたことがある。南韓のTV資料らを混ぜて編集した20分ほどのドキュメンタリーには、高麗大や延世大の学生たちが金正日を熱烈に崇める場面が出るが、彼らはまさにこの「26連絡所」の北極星要員たちだった。 こういうわけで、北韓で唯一南韓の歌を専門的に演奏し歌う統戦部所属の北極星要員らは、ヘアースタイル、抑揚、身なりを南韓の最新の流行に合わせる。金正日がしばしば「北極星」公演を観覧するのも、単純に南韓の歌を鑑賞するより彼らの体質化された南韓風を感じてみるためだ。 したがって、この動画は北韓の対内用でなく、対南心理戦用として製作され、女主人公も「26連絡所」の「北極星要員」と推定される。恐らく、統戦部は天安艦挑発によって(南韓に)澎湃した北側の反民族的イメージを、美貌の女性を利用した心理戦を通じて緩和させようとしたようだ。これからもこういう対南心理戦用の動画は続くと予想され、内容も進化し続けるはずだ。 |