李春根
歴史に無意味なことはない。天安艦撃沈事件で犠牲となった46人の海軍兵士たちと救助作業中殉職した韓主浩准尉と第98クムヤン号船員たちの高貴な犠牲は、大韓民国の現代史の流れを変える貴重な歴史的契機になるはずだ。
この高貴な犠牲は、今まで実在しなかった「仮想現実」の中で迷っていた大韓民国が再び国家安保を確実に確立し、対北関係を正常化できる決定的契機を創った。
共産圏の没落によって東西冷戦が終息した後、世界は「戦争地帯」(zone of conflict)と「平和地帯」(zone of peace)にはっきりと区分された。平和を迎えた地域もあったが、東西冷戦終息後かえってもっと多くの葛藤や戦争が勃発した地域もあった。
大部分の専門家たちが、東西冷戦後の韓半島を紛争地帯に属すると判断したが、大韓民国の一部国民と政策決定者たちは、韓半島が当然平和地帯に属すると思っていた。
特に、去る10年間二度の左派政府の執権期間中、わが国の公式的な対北政策は錯覚から導き出された、極度に非現実的なバーチャルリアリティ(仮想現実)に基づいた蜃気楼を追う政策だった。
北韓の神政主義的独裁政権の首魁に、「孝子」だの「スケールの大きい指導者」だの「委員長様」だのと言いつつ頭を下げた。平壌政権が演出する大規模の集団体操・「アリラン」を観覧した大韓民国からの平壌訪問客らは、非人間性の極致を見て感歎詞を発した。おむつを着けたまま4-5時間ずつ息詰まるマスゲームをやらねばならない、数万人の北の青少年のカードセッションの裏で隠れた歪んだ顔を想像してみた大韓民国の平壌訪問客が何人ほどいただろうか?
北韓側が望む通り何もかもやってあげれば平和が維持されると信じた。平和をお金で買えるものだと主張した概念のない御用学者も少なくなかった。対北政策の問題点を指摘する人々は「戦争狂」と烙印された。戦争は絶対駄目で、北韓を統一の対象とする政策は想像すら許されず、「急変事態」に備える計画でも作っておこうとした同盟国の提案も失礼なことだと拒んだ。
北韓側に降伏しようということと何が違うのか? 平和を非常に広く定義したら「奴隷の平和」も平和である。主人に反抗して殴られるよりそのまま屈服して生きるのが増しだと考えるならばのことだ。
少数ではあるが少なからずの大韓民国国民が李明博政府の対北政策のために天安艦事件が起きたという。それによって彼らは天安艦沈没が北韓側攻撃であったことを告白してしまった。彼らのいう平和がまさに「奴隷的」な平和でないなら何だろうか?
彼らは、李明博政権の対北政策のため天安艦爆沈事件が勃発したと話しているが、北韓の武力挑発は北韓政権が樹立されてから一度も中断されたことがなかった。1999年6月15日の第1次西海交戦、2002年の第2次西海交戦、時期を問わないミサイル発射、そして事実上最大の挑発だった2006年10月9月の核実験に至るまで、親北派が最善の対北政策だと主張する「太陽政策」の時代でも北韓側の対南武力挑発は止まったことがなかった。
北韓側が不法な武力挑発を勝手に敢行してもこれを膺懲どころか頭を下げながら、(北韓側の)行動を理解できると言った大韓民国の指導者らを彼ら(北側)はどう認識していただろうか? だからこそ、北韓側はアメリカだけを相手にすると図に乗ったのではないか?
天安艦撃沈事件は、大韓民国国民が仮想現実のもうろうとした状態から目覚められるようにしてくれた。わが政府の強力な対応方針に対して「これから緊張状態の中で生き続けねばならないのか?」と質問する韓国国民が多い。質問そのものが違っている。なぜなら、われわれは今まで緊張状態でなかったのが一度もなかったためだ。緊張状態ではないと錯覚してきただけだ。
今回の天安艦撃沈事件を契機に、われわれは韓半島が慢性的な緊張地帯に属していた事実をより正確に分かるようになった。遅れながらも現実が分かったから、大韓民国は問題を治癒できる重要な契機を掴めるようになった。
北韓で憲法より上位である「労働党規約」は、韓半島全体を主体思想が支配する地にするという遠大な目標を明示しており、北側は2012年4月15日、つまり金日成出生100周年を「強盛大国」完成の日と宣布した。大韓民国を吸収統一するという宣言だ。
この目票のため北韓側は核爆弾と大量破壊武器を開発・保有しているのだ。さらに、北韓側は120万を超える大兵力を維持しており、攻勢的な軍事教理を採択し、如何なるものより軍が優先するという荒唐な体制を維持している。去る10年間余り、北韓側は非常に楽な気持ちで彼らの目標へと邁進できた。北韓側に大韓民国政府などは戦略的考慮の対象に入れる必要もなかった。
だが、天安艦撃沈事件は全てのことを明確にしてくれた。これから、われわれの対北政策は北韓を自由、民主、豊饒の地に変えていくことに焦点を合わせねばならない。大韓民国が主導する統一を操り上げるという目標を設定し直さねばならない。その道だけが韓半島の安全保障問題を窮極的に解決する道であり、一民族一国家の理想を達成する道であり、北韓住民を救う道であり、強大国の間の劣悪な地政学的状況で、堂々と生きていける前提条件であるためだ。
|