ログイン 新規登録
最終更新日: 2020-02-27 00:00:00
Untitled Document
ホーム > アーカイブ > 小説
2010年02月03日 00:00
文字サイズ 記事をメールする 印刷 ニューススクラップ
 
 
序曲(55) 金鶴泳

 洋子と肉体関係に及んだのは、その不安を掻き消すためだったのだろうか-祥一は、「L」の広い窓ガラスから外を見やり、煙草を吹かしながら当時を振り返った。
 洋子と肉体関係に入ったのは、その直江津旅行から帰って数日後に、洋子の部屋を訪れたときだった。彼は、洋子の肉体を貧(むさぼ)った。欲望に飢えた動物のように、貧った。あの振舞いは、洋子に対する愛情からだったろうか?-彼自身、そうは思えない。単に動物的な衝動に身を委ね、自分の中の不安、あるいは鬱屈したものを忘れようとしたにすぎなかった気がする。
「アパートは、ここから遠いの?」
 洋子は最後のアイスコーヒーを飲み干していった。祥一はわれに返り、
「歩いて二十分ぐらいなんだ。バスで行くことにしよう」
 女の足では、歩いて行くのは遠いだろう。バスにしよう、と彼は考えた。
「そろそろ行きましょうよ。早くお部屋を拝見したいわ」
 洋子は促した。


「それより、君、昼飯はまだだろう?」
 洋子はうなずいたが、
「でも、まだあまりお腹(なか)が空(す)いてないの。祥一さんは?祥一さんが空いているのなら、おつき合いしてもいいけれど」
「ぼくもあまり空いてない。朝飯を食べたのが、十時すぎだったから」
「じゃあお部屋の方を先に見せて」
「そうするかい。じゃあここを出よう」
 彼は、煙草の火を灰皿に揉み消し、アイスコーヒーを飲み干して立ち上がった。レジで勘定をすませて外に出ると、彼は洋子を駅前通りのバス停留所に導いて行った。
「祥一さんは足がながいから、ついて行くのに骨が折れるわ」
 洋子は日傘をさし、笑いながらいった。
 洋子が彼のことを、祥一さん、と呼ぶようになったのは、肉体関係に入った日からである。それまでは、金さん、と呼んでいた。
 高校時代はもちろん森本さんと呼んでいたわけだが、上京して半年後、新宿のレストランではじめて会ったとき、洋子がかつての習慣から、相変わらず彼のことを森本さんと呼ぶので、
「ぼくは、いまでは、金という本名を名乗っているんです。だから、これからは、金と呼んでくれませんか」
 と彼はいった。
「金さん?それが本当の名字なんですか?」
「韓国人ですから」
「それはずっと前から知っていましたけれど、本当の名字がわかりませんでした。高校の同窓生に、安原和子さんという人がいたでしょう?」
「ええ、知っています。同じクラスになったことはないけど」
「安原さんのお家が、わたしの家から割合近いんです」
 安原和子の家は、敦賀の津内町で焼き肉屋をしていた。
「それでよく一緒に学校に通ったものですけど、あの人も韓国人で、本当の名字は安さんというのだそうですね」
「そうです」
 洋子は、韓国の人とか、韓国の方とかいわずに、韓国人といった。そのちょっとした言い草で、彼は、洋子は自分が韓国人であることに、別にこだわりを持っていないのを感じた

1984年9月5日4面

1984-09-05 4面
뉴스스크랩하기
小説セクション一覧へ
新型肺炎が全体主義体制を痛打
【映画】『人間の時間』(韓国)
韓日で反全体主義のうねり
4月総選挙は、主思派が指名した候補た...
新型肺炎 広がる懸念…感染者増に伴い...
ブログ記事
NO CHINA、文在寅を武漢へ、中国人を中国へ!
精神論〔1758年〕 第三部 第13章 自尊心について
美学と芸術の歴史 第四章 北方ルネッサンス
美学と芸術の歴史 第三章 イタリア・ルネッサンス
公捜處は憲法破壊
自由統一
国家機能が麻痺 ウイルス被害に直面 ...
金正恩は体制崩壊を止められるか
北の人権侵害 傍観者決めこむ文政権
北韓の電力不足 世界最悪レベル
金正恩体制で続く異常徴候


Copyright ⓒ OneKorea Daily News All rights reserved ONEKOREANEWS.net
会社沿革 会員規約 お問合せ お知らせ

当社は特定宗教団体とは一切関係ありません