ログイン 新規登録
最終更新日: 2019-07-18 00:00:00
Untitled Document
ホーム > アーカイブ > 小説
2009年10月26日 10:37
文字サイズ 記事をメールする 印刷 ニューススクラップ
 
 
序曲(46) 金鶴泳

 洋子の会社の仕事は平日は五時までである。いま四時だということは、洋子はまだ会社、というか、池袋のサービスルームにいるわけだ。
 祥一は、鬼胡桃(おにぐるみ)を机に戻し、部屋を出た。傘をさし、アパートから歩いて二分たらずのところにある駄菓子屋に行き、店先の赤電話に十円玉を入れて洋子に電話をかけた。
 洋子が仕事をしているサービスルームは、雑居ビルの三階にあって、電話が二つある。一つは事務所用の電話、一つは来客も使える公衆電話で、従業員である洋子に電話をかけるからには、事務所用の方にかけるのが本来だが、その電話の周辺には三、四人の同僚がいる。思うように話ができないから、自分に電話を寄こす場合は、公衆電話の方にかけてほしい、と前に洋子にいわれていた。
 祥一は、その公衆電話の方にダイヤルを回した。洋子が直接受話器に出てくる場合もあるが、そのとき出てきたのは別の女性だった。
「片桐洋子さんはおりますか」
「はい、おります」
「ちょっとお願いしたいんですが」
「少々お待ち下さい」
 その女性の声は、前にも何度か耳にしたことがある。先方でも、またいつもの人から電話がかかってきたと思っているふうで、こちらの名をたずねようともしなかった。
 やがて洋子が受話器に出てきた。
「お待たせしました。片桐でございます」
 洋子はあらたまった口調でいった。
「ぼくだよ、祥一だ」
「まあ、祥一さん」

 洋子の声に、にわかに親しみの響きがこもった。というより、何か安堵(あんど)したような声だった。
「お元気?」
「元気だよ」
「引越しの方は、もう落ち着いたの?」
「どうにかね」
「たいへんだったでしょう」
「いろいろとね。それで、君にも電話をかけられなかった」
 微(かす)かな後ろめたさをおぼえながら祥一はいった。
「そう、それならいいんだけど。留守中お電話をいただいたんじゃないかしらと思って」
「北陸に行ってたの?ついさっき手紙を受けとったところなんだ」
「そうなのよ。こちらもしばらくあわただしい日が続いて……。でも、もうひと区切りついたの」
「土曜日の午後は空(あ)いているのかい?」
 祥一はきいた。
「べつに予定はないわ」
「じゃあ、いちど部屋を見に、西荻窪にこないか」
「行っていいかしら」
「どうして?」
「お勉強のお邪魔にならない?」
「そんなこと、べつに構わないよ」
 彼は内心苦笑した。
「あさっては土曜だから、十二時にはそこを出られるわけだね」
「出られます」
「それじゃあね、あさっての午後一時に、西荻窪の駅のすぐ傍にある『L』という喫茶店で落ち合おう」
 そして、彼は、「L」の場所を説明した。
「あさっての午後一時、西荻窪の『L』ね」
 洋子は念を押すように繰り返した。

1984年8月23日4面掲載

1984-08-23 4面
뉴스스크랩하기
小説セクション一覧へ
韓国与党が中国共産党と政策協約
大阪金剛学園 新理事長に崔潤氏
反国家団体「韓統連」など招待
文大統領は「第3国仲裁委」構成を受け入れよ
半導体3品目 輸出優遇除外も影響は限定的か
ブログ記事
文在寅に問う!
共感を考える研究会
文在寅の不安な精神回路、その解離
哲学的疑問と哲学的感情
自由の風、ここに(審判連帯のロゴソング)
自由統一
開城工団再開の宣伝道具に
奇襲南侵から69年
近づく金正恩体制の終末
北側が弾道ミサイル発射
罠から脱出するため文在寅を脅迫する金正恩


Copyright ⓒ OneKorea Daily News All rights reserved ONEKOREANEWS.net
会社沿革 会員規約 お問合せ お知らせ

当社は特定宗教団体とは一切関係ありません