李相敦(中央大学教授、先端環境2008年12月号に寄稿)
1.オバマを支持した環境団体
次期アメリカ大統領のオバマは、いかなる意味でもアメリカに新しい時代を開く人物だ。彼が打ち出したアジェンダがどれほど成功するかは誰も分からない。イラク問題、アフガニスタン問題、経済問題など容易なものは一つもない。
オバマは、シカゴの低所得層の地域で市民運動をした。そうする過程で、ビル・アイアース(Bill Ayers)という1960年代にウェザー・アンダーグラウンドの地下暴力運動をやった人物と親しくした。また、彼は米国を呪う説教をする大衆煽動家のジェレミーライト(Jeremiah Wright)牧師の寵愛を受けた。選挙の途中このような問題が提起されたが、オバマは彼らと関係がないと宣言した。しかし、オバマの初めての著書である自叙伝は、ビル・アイアースが代筆したという疑惑が提起されているほどオバマと彼らの関係は根強い。
オバマは、かつて環境団体から支持された。2004年初、環境有権者協会(The League of Conservation Voters)は、イリノイ州議会議員だったオバマを上院議員候補として支持した。シエラ・クラブと自然資源防御協議会(NRDC)もオバマを支持した。この団体らはオバマに選挙資金も提供した。オバマが上院議員に当選するには、ライト牧師が導く黒人団体だけでなく、環境団体の役割も大きかった。民主党の予備選挙ではアール・ゴアまでオバマを支持し、結局ヒラリーを締め出して候補になるのに成功した。
2.オバマのエネルギー政策
大統領選挙期間中、オバマ-バイドンのキャンプが出したエネルギー政策は、既存のアメリカのエネルギー政策とはあまりにも異なる。むしろ、自然資源防御協議会(NRDC)のような環境団体が作成した綱領と凄く似ていた。重要な内容を見ると次の通りだ。
第一、短期的対策として、ガソリン価額の上昇によって苦しんでいる一般消費者のため石油会社が得た超過利潤(windfall profit)を1人家庭には500ドル、夫婦の家庭には1000ドルずつ戻し、エネルギー投機を遮断し、戦略用備蓄石油を放出して石油価格を安定させる。
第二、長期的には、温室ガスを減縮して気候変化を防止するための対策をたてる。このためには、温室ガスの排出総量を制限する限度を設定して取り引きする(cap and trade)方式を採択し、終局的に2050年には1990年に排出された二酸化炭素量の80%水準で安定化させる。このため汚染を減縮させた量を取り引きするシステムを施行する。中国やブラジルのような開発途上国も気候変化協約による温室ガスの減縮体制に参加するようにする。
第三、クリーン・エネルギー経済に投資し、500万個の新しい働き口を創り出す。これから10年間、1,500億ドルを投資してプラグ・イン・ハイブリッド自動車を普及し、再生可能なエネルギーを商業化するようにし、次世代のバイオ燃料を開発する。また、クリーン・テクノロジー時代に応じるための職場教育プログラムを提供する。
第四、アメリカ産自動車のエネルギー効率性を上げるため、アメリカ自動車の平均燃費を毎年4%ずつ増加させ、2015年まで100万台のプラグイン・ハイブリッド自動車が米国の道路を走るようにする。プラグイン(plug-in)ハイブリッド自動車のような先端自動車を購入する人に7000ドルの税金恩恵を提供する。就任後(4年間の)初任期末まで、すべての自動車が色々な燃料を使えるように強制する。自動車の排出ガスに炭素含有量を低くするよう全国的基準を導入する。
第五、石油採堀権を持っていながら採掘しない場合、これを回収し、既存の油田からより多くの石油を生産するようにする。アラスカの送油管建設を促進する。
第六、2012年まで米国で生産される電力の10%を太陽、風力、地熱のような清浄で持続可能な電源で充当し、清浄石炭技術を導入する。
第七、アメリカ社会全般をエネルギー消費減縮型に脱皮させる。エネルギーの効率性を向上するため全国的に建築分野の効率性基準を定め、エネルギー効率の基準も強化する。連邦政府のエネルギー消費を減らす。低所得層家庭の耐熱・防寒装置の設置を支援し、より暮らしやすく、持続可能な地域社会を建設する。
3.最初の「緑色のアメリカ大統領」
これほどだと、オバマを初の緑色のアメリカ大統領(The First Green U.S. President)と呼ぶのに遜色がない。だが、問題はオバマが提示した政策がいったい現実性があるのかという点だ。
まず、注目すべき部分は、オバマがアール・ゴアの主張を多く反映したという事実だ。温室ガスを最優先し、炭素の取り引きができるようにするという主張は、アール・ゴアが特に強調したことだ。アール・ゴアはこういう取り引きを仲介する会社のクライナー・ポキンス(Kleiner Perkins)等に関与している。大統領になれなかったためお金でも儲けようという心算だ。
太陽熱、風力など「再生可能な」エネルギー技術は、新しいものでなく、ただ、経済的でも、実用的でもなくて普及できなかっただけだ。バイオ・エネルギーも、そのため食糧不足など問題がすでに露呈されたのに、何が次世代のバイオ・エネルギーと言えるのか分からない。このような構想を実践に移すためには、まず莫大な投資が必要だが、カーター行政府の時も、クリントン行政府の時も、そのような投資は結局無駄なことに帰着してしまった。現在アメリカの経済・財政事情を考慮すれば、このような投資は、結局国防費を大幅縮小して当てるしかない。イラクからの撤退だけでなく、駐韓米軍の撤収も予想されるわけだ。
オバマは、ガソリン価格が値上がりしたという理由で、各家庭に500-1000ドルずつがガソリン代を払い戻しすると言った。ガソリン税を低くして政府がやるのではなく、石油会社の超過利益の部分を還収して戻すということだ。企業が取れる利益を政府が決め、それを超えた部分は政府が還収して消費者に戻すということだ。それでは、過度に儲かっているマイクロソフト社やハリウッドの映画俳優などの所得も、還収して消費者に戻さなければならないはずだ。自由主義経済体制を根元から揺さぶる発想に違いない。ブッシュとネオコンに飽き飽きしてしまった米国人らは、社会主義者を大統領として選んだのだ。
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