洪官憙(安保戦略研究所長)
I. 金正の日臥病による北韓の体制危機
金正日(66歳、国防委員長)の重病で韓半島に新しい歴史的な転換が近づいている。金正日が半身不随の状態から速く回復しているという観測もあったが、外信らはこれを否認し、金正日の病状が重症であることを再確認している。
金正日が去年の夏から心臓と腎臓など複数の身体機関に異常が生じ、苦痛に苦しみ始め、すでに今年の4月から時々意識を失い始めたという報道も出た。(毎日新聞14日付)
これにより、金正日が「病床政治」をしているというものの、その影響力は半減することが確実だ。金日成・金正日の「世襲王朝」が築いてきた無慈悲な権力が持つ「慣性」により現在は金正日の影響力が保たれているが、彼の掌握力は日に添いて減るはずだ。
今、世界はすっかり彼の「後継」ないし「post-金正日」の権力構図に関心が傾いている。そして分析と展望が続出している。集団指導体制という展望、軍部(特に国防委員会)の浮上の不可避説、軍の「3人衆」による統帥権の掌握説、張成沢・金玉の実勢の浮上説および委任統治説など多様だ。これから多数の人物が順次的に短期間浮上し交替されて消える過程があり得る。
こうした中、労働党機関紙の労働新聞は、9月14日の「正論」で、「金正日の臥病は、国家と人民に対する献身によるもの」としながら、住民に忠誠と一心団結を要求もした。また平壌放送は、9月15日、「どんな強風が吹いても祖国を守ること」を主張し、金正日の健康異常説の中で体制の取り締まりのためにもがく姿を見せてくれた。
金正日の臥病による北朝鮮体制の崩壊危機は、われわれに機会と危険を同時に提供する。われわれは、この危機を機会として転換させてこそ国運が隆盛する。
内外の韓半島問題専門家たちが最も注目するのが、中国の介入の可能性だが、興味深いのは米国から、「韓国の主導的役割」を注文する声が大きくなっているのに、中国は北朝鮮状況の「論難化」を回避しているという点だ。鴨緑江にすでに軍隊を配置したのを見ると、老練な対応に違いない。北朝鮮の危機が国際問題化することを避け、既存の対北朝鮮利点とレバレッジを活用して、排他的な影響力を維持するという戦略に見える。
米下院の外交委員会は、金正日の健康と関連した緊急ブリーフィングを要求し、「韓半島問題の当事国である韓国が、(北朝鮮将来)議論過程から除外されてはいけない」という立場を明らかにした。しかし、中国の官営媒体らは、ハンナラ党の黄震夏議員の12日の「韓半島有事時の中国の介入の可能性に備えなければ…UNの監視体制が重要」の発言に対し、「荒唐無けいで奇怪な発想であり、無知の至り」と、評価切下げをするなど敏感な反応を見せた。(人民日報の姉妹紙の「環球時報」、13日付)
また、北朝鮮体制の崩壊に備えて「米・中が極秘議論中」という報道も出た(米フォックスTVインターネット版、9月11日付)。先週のヒル次官補の中国訪問も、北核よりは金正日の死亡後の議論のためだったと伝えられている。
再び、われわれの頭越しで、列強の間に韓半島問題が取り引きされることがあるのか? 韓半島の大激変・大転換の時期にわれわれはどのように対応すべきなのか?
まず、19世紀末とは違って、韓国の国際的地位が大きく変わったという点を認識しなければならない。韓国はすでに世界経済の11~13位に位置する経済大国だ。特に、2万 8千人規模の駐韓米軍の駐留が、韓・米軍事同盟を実効的に支えている。韓国の政策路線が東北アジアの国際情勢において「独立変数」として浮上したのだ。もちろん、これは韓・米同盟が確固として維持される限りそうだということだ。
このような点で、最近政府の「作戦計画5029」のアップデートや「作戦マニュアル」の確立の努力は、非常に肯定的なこととして評価に値する。特に先週、青瓦台の高位関係者が訪米し、米国政府と緊密な協議を持ったことは非常に適切な措置だった。さらに一歩進んで、2012年に予定された「戦時作戦権の転換」を再検討するか、これを超えた韓・米軍事同盟の刷新と強化措置が必要だ。
韓・米同盟という土台の上で、中国とも注意深く協議を進めなければならない。「一つの中国(One China)」の原則をわれわれが受諾する代わりに、「一つの韓国(One Korea)」の原則を中国が受け入れるよう要求しなければならない。韓・満国境の問題において、鴨緑江-豆満江の南に対する大韓民国の領土主権の行使を中国が認めるようにして、中国が持っている「統一韓国」の満州地域に対する影響力の憂慮を払拭させられるように具体的措置を取るのも一つの方法だ。
参考に、中国との摩擦を避けるため、統一後の駐韓米軍の駐留を北緯38度線、または39度線の南に制限する方法が、ある国際会議で議論されたこともある。
われわれは、国際的に理解され得る正当な対北統一戦略の目標を設定しなければならない:具体的に、如何にして北朝鮮の体制危機を(i)自由民主への統一、(ii)北朝鮮同胞の解放、(iii)大量殺傷武器(WMD)の除去などの機会として変化させるのかである。
II. 国家のアイデンティティの確立、内部統合の必要性
北韓の急変事態に対する対応と同時に、韓国の内部分裂の統合や説得が緊急な時点だ。それほど北韓の危機への対応と国家のアイデンティティの確立はコインの両面のように不可分の関係である。
解放後の大韓民国の建国史を「恥ずかしく日和見主義的な」歴史として蔑視してきた、「失われた10年」の「価値観の歪曲や顛倒」を正してこそ、近づく韓半島の危機を統一の機会へと変転させることができる。
このような点から、大韓民国の国家アイデンティティを回復・再確立・定着させるための運動が必要だ。社団法人「国家アイデンティティ回復国民協議会(国正協)」(会長朴世直)が今年の4月胎動した背景もここにあると思う。
9月17日開催される第1回「国正協」のセミナーで、姜京根崇実大学教授は、発提文を通じて、「大韓民国の国家アイデンティティは、政治的統合と社会的秩序の『全体的状態(status)』であり、これが無くなるとその(国家の)存在もなくなるそのもの、それがまさに国家のアイデンティティだ」と強調した。国家のアイデンティティが、大韓民国んp国家の魂であり、「存在そのもの」であることを強調したと分析される。
姜教授は、引き続き「国家アイデンティティの実現の機能は、『主権』を国民に帰属させ、これを国家存立のイデオロギー的基礎とし、自由民主主義を実現することにある」と指摘し、「全体国民の主権の保有を否定する階級的人民主権などは、国家アイデンティティに反する」とし、「北韓人権に対する関心の疎かさはわれわれの憲法の領土条項を基礎にする国家的正統性として表徴される国家のアイデンティティに食い違う」と力説した。
このような脈絡から、姜教授は、「大韓民国のアイデンティティの中心は、北韓の新版王朝的世襲独裁体制から大韓民国を護ることであり、民族という神話から抜け出て、共産独裁勢力からわれわれを護ることであり、自由民主主義を護ること」という結論を引き出す。
その間、「民族」という概念を平壌側が先取りして対南扇動に活用したため、韓国社会の内部に大きな混線と陣痛があった。しかし、北のいう「民族」の概念が、ただ金日成に忠誠をつくす人々で構成された、いわゆる「金日成民族」を意味するため、真の「韓民族」の概念に符合しないという事実を、もう知るべき人こそは皆知っている。
もはや、われわれは歴史の中でその普遍妥当性が立証された「自由民主主義」のイデオロギーの土台の上に、真の意味での韓民族の統一・統合を実現しなければならない。このために2千万の北韓同胞の桎梏からの解放が前提にならなければならない。
姜教授は、去る10年を回顧し、「大韓民国を否定する政策や言語などは、刑法上では反逆であり憲法上では法治主義を歪曲させ、暴力の支配をもって法の支配の秩序を圧倒するようにした」と指摘し、「この時期は、実に大韓民国の憲法的正統性の暗黒期であった」と批判した。
この時期に、「人々は日常の暴力が恐ろしくて国家的道義に反する行為らを座視し、知識人らはこれを卑屈に受け入れて自分の文と言葉で巧妙に包装した民主の名を借りて市井で売った…法治主義とそれに基づく民主主義を言い、行動した少数の知性は、破壊主義者などの『極右、保守』という話の蔑視に同調したか黙認したあの多くの知識人らによってもっと侮辱を受けた」と嘆いた。
特に、政権交替の後も、「政権が変わったこの右派執権の時代に、自分たちを隠忍自重していた、と自称しながら変身した知識人らが、政権交替を通じての憲法的正統性の回復を遅らせている」と一部の人々の日和見主義的な身の振り方を告発している。
引き続き、李柱天円光大学教授は、発提文を通じて、「現政局は一言で、(i)48年体制と87年体制の間の激突であり、(ii)李承晩の自由民主主義および反共路線と金九の左右翼合作路線の間の理念闘争であり、(iii)韓・米・日共助体制を強調し、太陽政策を廃棄して北朝鮮解放を念願する保守右翼と『民族共助』という口実の下、金正日共産勢力を支援しながら危なっかしい南北連邦制へと行こうとする親北左翼との間の韓半島統一の方向を囲んだ乾坤一擲の闘争だ」と時代概念を定立した。
したがって、「国家のアイデンティティの確立のための基調は、建国の主役が構想した建国の理念、憲法精神、特に、憲法3条(韓半島領土条項)と憲法4条(平和的自由民主統一条項)、(建国の主役)彼らが指向した価値観を再確立することから出発しなければならない」と強調した。
彼は、「ただし、これは『左偏向した歴史の正しい立て直し』や『わが歴史を正しく知ること』の一環であって、政治報復の次元で進行されてはいけない」と付け加えた。
李教授は、「去る10年間の金大中・盧武鉉左派政権を経ながら、大韓民国は三つの大きな危機」に直面しているが、「(i)対外的には太陽政策という対北宥和政策により金正日に核開発を許したことで安保危機が加重されたこと、(ii)対内的には韓国社会の内部葛藤や左右翼間の理念的対立が激化し高まった韓国社会の理念的対立と分裂、(iii)政権交替の後、親北左派の不法で暴力的な反政府運動により発生した政局の不安」を挙げた。
これに関する根拠として、「過去史糾明委員会が左翼事犯を民主人士にしたり、公安事件の判決を覆してパルチザン疑惑事犯を民主化に寄与した人物として左派政府が褒賞したこと…過去の左翼が『民衆暴動』を抗争や民主化運動という名称で正当化しようとする企図…また、体育競技場で太極旗の代りに正体不明の『韓半島旗』が翻るのを眺めながら、ソウルでなくあたかも平壌に住んでいるような錯覚をした時」等を例示しながら、このすべての「覆し現象」が「アイデンティティの危機の断面を見せてくれるものだ」と強調した。
去年の12月、歴史的な政権交替を成し遂げた後の9ヶ月間、わが国民は一種の「過渡期-試験期」を経ながら、国基と国体の確立、つまり、国家のアイデンティティの確立がどれほど重要かを改めて悟り、その真の回復を渇望している。
金正日の重病による韓半島においての新しい転換期に、われわれは、内部的に、(i)自由民主主義と自由市場経済、(ii)大韓民国の唯一合法政府としての国家の正統性、(iii)韓・米同盟を再確立しながら、対外的にはアメリカとの軍事同盟を土台にして中国を説得し、北韓の体制危機を、(i)自由民主統一、(ii)北朝鮮同胞の解放、(iii)大量殺傷武器の除去という3大目標の実現のための契機にしなければならない。そして、恒久的な韓半島の平和や念願である民族統一を成し遂げなければならない。(了)
洪官憙(ホン・グァンヒ)博士の安保戦略研究所
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