サムスン電子とLG電子は、日立製作所の家電事業関連会社のM&A(合併・買収)を検討している。日本を代表する大手電機メーカーの技術とブランドを手中にするとともに、日本市場での普及を図る。日立は経営戦略である「選択と集中」を進め、社会インフラやIT(情報技術)ソリューション分野への経営資源集中を加速させる計画だ。
日立が売却しようとしているのは、日立グローバルライフソリューションズ(GLS)。冷蔵庫や洗濯機、電子レンジを主力商品とした白物家電事業を日本国内向けに手掛けている。栃木市と茨城県日立市が製造拠点となっている。従業員数は約5100人。
日立GLSの2025年3月期の売上高は前期比2%減の3676億円。調整後EBITA(利払い・税引き・一部償却前利益)は13%増の392億円。売却金額は1000億円から数千億円規模と見込まれている。
日立はグループとして近年、デジタル技術を活用して継続的に収益を上げることができるサービスに注力している。白物家電は売り切りが基本で、デジタルサービスとの相乗効果が薄い。
日立GLS売却の1次入札には、サムスン、LGのほか、トルコのアルチェリク、中国家電事業社など7~8社が参加した。アルチェリクは20年に、日立製作所の海外家電事業部門をM&Aで取得した。関係者によると、サムスンの買収意欲が最も高いとされる。
日立は10月に優先的交渉権を与える企業を絞り込み、12月に最終的に売却先を決定する。売却の条件として、社員の雇用の保証や、ブランド名を5年間維持することを求めている。
日本の家電市場は独自の商習慣や高い品質基準から、海外勢にとって参入障壁が高いとされてきた。しかし日立のブランドと技術力を手に入れることで、日本市場での信頼性を高めることができる。
サムスンにとっては07年に撤退した日本市場への、18年ぶりの再挑戦となる。同社はスマート家電の分野で、AI(人工知能)を活用した製品を多数展開していることが強み。日立ブランドによって、再参入の足掛かりを狙う。
LGはテレビやモニターなどの製品を日本で展開しているが、白物家電についてはやや足踏みしていた。しかし日立GLSを傘下に収めることで白物家電を強化し、日本市場での浸透を図る。
日立GLSが韓国企業の傘下に入ることで、日本の技術力と韓国のビジネスモデルが融合し、次世代のスマート家電領域で新たな価値を創造する可能性がある。日立の信頼性と、サムスン、LGが強みとするIoT(モノのインターネット)やAI技術が結び付けば、家電は日常生活をより快適にしてくれるツールとして進化する。
日本電機工業会(JEMA)によると、24年度の白物家電の国内出荷額は23年度比で2・4%増の2兆5838億円。新型コロナウイルス禍による巣ごもり需要やメーカー各社による高付加価値化で足元は増加傾向にあるが、少子高齢化の進展による頭打ちは避けられない。
家電はかつて日本の電機メーカーが強い領域だったが、10年代以降はアジア勢にとって代わられた。12年には中国・海爾集団(ハイアール)が旧・三洋電機、16年には中国・美的集団が東芝の、各白物家電事業を傘下に収めている。同年には台湾の鴻海精密工業がシャープを買収した。 |