次は「152番歌」。
八隅 知之
吾 期 大王 乃 大御船 待 可將
戀 四 賀 乃
辛 埼
国中の人々よ、天智天皇の業績を知らせなければならない。
私の大王が乗って行かれる大御船を待て。
四方の人々は天智天皇を偲び、天皇の生前の業績を称えなければならない。
大御船が岬を出て去る。
舎人の吉年の作品である。八は万葉集で「多い」を意味する。「国中の人々」と解読せねばならない。大王は天智天皇である。当時まで「天皇」を「大王」と呼んでいたことが分かる。
大御船とはあの世への船をさす。古代の黄泉路は、鳥になって飛んで行くか、船に乗って渡ったと考えられていた。
次は「153番歌」。
鯨魚取 淡海 乃
海 乎 奧放 而
榜 來 船 邊 附 而
榜 來 船 奧津 加
伊 痛勿 波祢曾
邊津加
伊 痛莫 波祢曾
若草 乃 嬬 之 念 鳥立
鯨と魚を捕る澄んだ海。
君が海のうねりへ旅立つ。
あの世の船がやってくる。
あの世の船が岸にたどり着く。
(船が)漕いで来るわ。
あの世の船が岸に着いてこそ。
君が発つから哀痛するわ。
あの世の船が岸の渡場に着いたのか。
君が去って行くから悲しいわ。
もし君が海でなく草地で行くなら、体の弱い私も一緒に行きたいわ。
こう思いたい。
倭大后の涙歌である。
次は「154番歌」。
神 樂浪 乃
大山守 者 爲 誰 可 山 尒 標 結
君 毛 不有 國
霊魂が楽浪を去られるね。
大きな山を守る人は誰のために山に標を結んだのか。
君のいない国。
作者は石川夫人。楽浪は近江のことだ。「楽しさが波打った場所」という意味である。
神も勝てなかった君(天智天皇への涙歌9首)
<つづく> |