韓国政府が防衛産業の輸出強化に注力している。世界情勢の不安定化による安全保障環境の変化により、ここ数年間で驚異的な輸出額の伸びを記録。価格競争力などを武器に急速に世界市場に浸透し、さらなる成長への期待が高まっている。一方で、昨年末の非常戒厳など国内情勢が及ぼす影響が懸念されている。
価格・性能・短納期など訴求
韓国の政府・与党「国民の力」は10日に開いた「K防衛産業の輸出支援のための政府与党協議会」で、先端素材、宇宙、人工知能(AI)など国防戦略技術に2027年までに3兆ウォン(約20億8000万ドル、約3150億円)以上を投資し、防衛産業の輸出支援を強化することを決めた。
前年比40%増
スウェーデンのストックホルム国際平和研究所(SIPRI)が昨年12月2日に発表した世界の防衛産業の動向に関する調査結果によると、2023年の売上高上位100位までの企業を国別でみると、韓国は前年比40%増であり、急成長ぶりを示している。
これは戦争を継続し、最大の伸び率のロシアと遜色ない数値となっている。米国、英国、中国は5%以下の伸びで、フランス、イタリアは減収だった。
躍進著しい韓国だが上位100社のシェアでみると、米国が50%、中国が16%、英国が7・5%、フランスとロシアが4%。韓国は1・7%ほどであるが、逆に言うと伸びしろは大きい。
上位100社に4社
韓国企業の最上位はハンファグループの24位。53%増収で前年から順位を18上げた。続いて韓国航空宇宙産業(KAI)が56位で45%の増収、LIGネクスワンが76位で0・6%の増収、現代ロテムが100位圏外から87位に浮上し44%の増収と、4社が100社入りした。
韓国の武器輸出額は20年までは30億ドルほどだったが、23年には130億ドルと4倍以上に急増した。24年には150億~200億ドルになると予測されている。韓国政府は27年までに市場シェアを5%に引き上げ、世界4位に躍進する目標を掲げている。
世界シェア6割
韓国防衛産業の好況は、国際情勢の変化によってもたらされた。22年から続くロシアによるウクライナ侵攻、それに続くパレスチナとイスラエルとの紛争、米中対立などの影響で、周辺国を中心に各国が防衛力を強化する動きが広がっている。
韓国防衛産業の強みは価格競争力にある。例えば韓国のK9自走榴弾砲は、ドイツのPzH2000自走榴弾砲とほぼ同等の性能だが半額ほどとされる。このためK9自走砲は世界シェアで約60%を占めている。また通常、注文から納品まで数年かかるが韓国の場合、数カ月で供給することができる。
競争力のある有望な韓国防衛産業だが、非常戒厳以降の政治情勢の影響が懸念される。実際、昨年12月に訪韓したキルギスのジャパロフ大統領は防衛企業視察を中止し帰国した。スウェーデンのクリステション首相も訪韓しての防衛企業との面談を取りやめ、交渉再開のめどは立っていない。
懸念は国内情勢
防衛産業関係者は「政府の防衛外交が停滞し、契約推進に支障が出ている」と先行きを懸念している。一方で、「価格競争力と迅速な納品が強みであり、一定の耐性がある」と一時的な政治的混乱が競争力を揺るがすことはないとの見方もある。関係者は「政治的混乱が早急に収束することを望む」と語る。
キヤノングローバル戦略研究所の伊藤弘太郎主任研究員は韓国防衛産業を巡る今後について「非常戒厳以前に契約まで至っていた案件は粛々と進められる一方で、セールス段階の相手国への新規案件提案や契約締結は難しくなる」と予測している。
協議会に出席した政府・与党の幹部ら |