焼肉店の倒産が過去最多ペースで急増している。企業信用調査会社の調べによるもので、円安などを要因とした原材料費高騰が経営を直撃したとみられる。人手不足による人件費の負担など、運営コストのさらなる増大が予想され、経営環境は厳しさを増している。一方で焼肉店経営者側の視点では「業界全体での経営悪化の影響は感じられない」と逆の見方をしている。
最多ペースの倒産件数
大手企業信用調査会社の帝国データバンクによると、2024年1~6月までの上半期で20件が倒産。前年同期比約2・5倍となっている。年間としてはこれまで最多だった19年通年の26件を上回るペースで推移し、過去最多を更新する勢いをみせている。さらに個人営業など小規模店の閉店や廃業などを含めれば、実際はより多くの焼肉店が市場から淘汰されたとみられる。
同社によると焼肉店を中心に展開する外食産業のうち、23年度業績が赤字となった企業の割合は34・8%を占めている。前年度から利益が減少した減益を合わせた業績悪化の割合は64・6%に上り、過去10年で2番目に高い水準だった。要因として、電気・ガス代や人件費などの店舗運営コストの負担増に加え、米国産や豪州産などの輸入牛肉、価格を抑えたメニューで採用される安価な豚肉でも円安で価格高騰が重荷となったと分析している。
しかし、焼肉店経営者サイドは「悪化している自覚はない」と同社の見方を否定する。
業績は前年比横ばい
中小零細規模の焼肉店経営者の組合である全国焼肉協会では直近の会員企業の経営状況を「24年は3月、4月、5月とほぼ前年比で横ばいとなっている。23年はコロナ明けで前年比大幅増だったが反動減にならず、ほぼ前年並みを維持している。業績は安定しており、調査結果のような悪化の実感はない」としている。
同協会によると1991年の牛肉輸入自由化によって食材確保がしやすくなり、それまで在日コリアンがほとんどだった焼肉店経営に日本の資本が参入した。以降、焼肉業界は右肩上がりに成長したが、2001年に発生した牛海綿状脳症(BSE)を発端に急落。続く08年のリーマン・ショックによる世界金融危機の後にV字回復を果たすが、20~22年のコロナによる規制で再び大打撃を被った。
コロナ禍で淘汰進む
コロナ禍では飲食事業者に助成金が支給されたが終了後、客足が戻らず淘汰された事業者もあった。一方、コロナ禍の助成金支給の現状に甘んじることなく、弁当やテイクアウト、宅配、通販などの新規事業の開拓で新たな事業の柱を作る企業努力をした事業者はコロナ明けにも生き延びているという。
同協会の旦有孝専務理事は「コロナ禍では経営者の手腕が試された」と言い、現在の状況を「生き延びた会員各社のほとんどは問題なく事業を行っている。それほど心配することではない」と明言している。
大手の参入相次ぐ
また換気ダクトの導入が進んでウイルス感染のリスクが少ないとみられたことから、コロナ禍では焼き肉への大手飲食チェーンの新規参入が相次いだ。これについて旦専務理事は「和牛の大量仕入れは簡単ではなく、多店舗展開は当初の予定通りにはいっていないようだ。既存の中小零細店の脅威にはなっていない」という。実際、20年に焼肉業態に参入した大手居酒屋チェーンは22年までに120店舗を計画していたが、現在23店舗にとどまっている。
値上げ容認追い風に
ここへ来て会員企業では値上げによる売上げ増を実現させ、経営環境にも追い風が吹いている。旦専務理事は「ようやく世間に値上げ容認の意識が芽生えてきた」としているが、「収入が伸びなければ、来店頻度が減る可能性がある」と先行きに気を引き締める。
それでも「高級店といえども、一人当たり数万円は必要な寿司と比べると割安で楽しめる。また幅広い価格帯の店舗が揃い、利用客が予算や好みで選ぶことができる」と焼肉の飲食業態としての強みを語る。
全国焼肉協会会長で焼肉チェーン「焼肉トラジ」などを運営する金信彦社長は「魅力ある店舗、商品、サービスを提供する顧客への訴求が求められている。値上げしても客足が離れない、経営者としての手腕がより一層問われていくだろう」と今後の生き残りの方向性について語っている。
魅力ある店舗、商品、サービスの提供が求められる焼肉店 |