北韓の金正恩総書記がついに「南北統一」を放棄した。金正恩氏は2023年12月末に開かれた朝鮮労働党の会議で、「大韓民国の連中とは、いつになっても統一が実現しない」「北南関係はこれ以上、同族関係、同質関係ではない敵対的な両国関係、戦争中にある両交戦国関係に完全に固着された」などと明言。年が明けて24年1月に開かれた最高人民会議(日本の国会にあたる)で演説を行い、「ほぼ80年間の北南関係史に終止符を打ち、朝鮮半島に並存する二つの国家を認めたことに基づいて、わが共和国の対南政策を新しく法化した」「憲法にある『北半部』『自主、平和統一、民族大団結』という表現が今や削除されなければならない」と断じた。北韓が国家目標としていた「南北統一」の放棄である。
故金日成主席は社会主義体制による韓半島の統一、すなわち「赤化統一」を目論んで旧ソ連(ロシア)を後ろ盾に朝鮮戦争を仕掛けたが、大韓民国の思わぬ抵抗と、米国の参戦で勝利できなかった。赤化統一が難しいと見るや高麗民主連邦共和国という統一路線を打ち出した。
故金正日総書記は、金日成氏の連邦制を踏襲しつつ、韓国の故金大中大統領と統一を目指す「6・15南北共同宣言」を結んだ。北韓の指導者は、どんな形であれ南北統一は国家的目標であるという姿勢を表向きは崩さなかった。
ところが、三代目の金正恩氏が祖父と父が唱えてきた統一路線を否定したわけである。それどころか、先代が築き上げた業績を無慈悲に破壊しつくすつもりだ。
金正恩氏は、演説で「北と南を同族にまどわす残滓的な単語を使用しない」「大韓民国を徹頭徹尾、第1の敵対国、不変の主敵と確固として見なすように教育を強化する」と述べた。「祖国統一」という概念もスローガンも残滓、すなわち「残りかす」と言い切った。
金正日氏が01年に統一へのメッセージを込めて建設した平壌の「祖国統一3大憲章記念塔」を「無様」と罵倒し、撤去すると述べた。さらに、祖国平和統一委員会(祖平統)、民族経済協力局、金剛山国際観光局などの機関の廃止が決定された。朝鮮中央テレビは、地図のCGで韓半島全体の色を赤としていたが北韓のみが赤色に変わった。
金正恩氏の統一放棄宣言に対しては、一時的な気の迷いや戦略的な対外路線という見方もあるが、筆者はかなり熟考して出した結論だと見ている。
金正恩氏の至上命題は、正恩氏を頂点とする金王朝の護持だ。北側に有利な形の南北統一が成立したとしても、中長期的に金王朝が弱体化することは避けられない。
筆者は22年8月の本稿「光復節に祖国統一を問う」で、「金正恩政権が最も統一を望んでいないかもしれない」と指摘したが、その見方は間違っていなかったようだ。なぜ、金正恩氏が統一を望まないのか、そして韓半島は本当に統一すべきなのか。
今回も含めて3回にわたって南北統一問題について書いてみたい。 |