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2022年02月08日 12:37
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ノースコリアンナイト~ある脱北者の物語(65)一本のモルヒネ注射

 今年は2月1日が旧正月だ。2月のスタートと1年の始まりが重なって、何となく体に力が入る。韓半島は北も南も祝日だが、日本は火曜日だから平日だ。休みたかった。
静かに過ごしたかったからだ。私には小さい頃から自分に向けて作ったいくつかのルーティーンがある。その一つが、旧正月は静かに「ゆく年くる年」について考えることだ。
北朝鮮は集団主義で個人はない。自分の時間を持てず組織的集団行動のなかで、ただ歳月が流れるのみだ。「自分」を大切にして自己主張する―それは「死」と直結していた。そんな場所で私は、生命に危険がなく実現可能なルールとルーティーンを、わずかだが自分に向けて作った。それは、気が触れた人物が支配している北朝鮮で、私がおかしくなってしまいそうな時に自身を救ってくれたりもした。
日本に来てからの旧正月は、北朝鮮にいる兄弟を思いながら彼らの無事を祈りつつ断食を行っている。「兄弟のため」というより「自分の気持ちが楽になるため」といったほうが当たっているかもしれない。今年は北朝鮮関連のニュースで騒がしい旧正月だ。1月に7回もミサイルを発射した。世界がコロナの新種ウイルス対策に追われている中で、不安と恐怖をより煽っているのだ。正常ではない彼らしい行動である。
人は自分のことでなくとも、隣の人が苦しんでいるのを見ればその人のために祈ったりするだろう。だが北朝鮮の支配者たちは、民の苦労を増やすことに喜びを見出しているのだから、「人」の定義には当てはまらない。
それらが支配する場所に生まれたドンスは、生まれた時には正常に持っていたはずの人間の機能を失って、17歳にも満たないのに死の一歩手前にいた。
自分の意思を表す能力を失ったドンスだけれど、私は彼の考えを知りたくてドンスの顔を見つめていた。まだこの場所に残りたいのか、それとも早くこの世を去りたいのか。それは、1本しかないモルヒネを使用するかどうかを左右したからだ。
モルヒネの作用と使用について、具体的なことは何も知らなかった。北朝鮮では、栄養状態がよくない人にモルヒネを使うと死に至ること、少しは楽に死ねる方法だということが広く認識されており、使用する人が結構いた。ほとんどの人々は、苦しまずに死ねるように、アヘンのかたまりかモルヒネ1本を宝物のようにして隠し持っていた。
ジョン先生がモルヒネを持ってきたということは、先生がドンスを諦めたということを意味し、私は一瞬、怒りの感情に捉われた。だが、それは私の未練であり、八つ当たりだ。ドンスの病状は、もはや回復の見込みがないと分かっていた。それでも私はドンスの意思を知りたかった。「個」がないところで「個」を表現できる機会を得たなら、それにこだわろうとする私の一種の「病気」の表れだった。
さて、ドンスの意思をどうやって知ることができるのか、それが問題だった。ドンスの手のひらと甲に同じ字を書いてみた。どちらの側にどの程度の感覚が残っているのかを確認したかった。左手は反応がなかった。右の甲が反応している気がして、何回も同じことをやってみた。やはり右手の甲だ。ドンスは私の行動の意味を理解したようで、私の右手の人差し指を握って来た。
力は入っていなかったが嬉しかった。その瞬間のドンスの激痛などは考えなかった。もう一方の手でドンスの手を覆った。そのときキム君が私の隣にやって来て、自分の手を差し出した。私はキム君の手とドンスの手を握らせて、ドンスの足の方に座った。
再び頭の回転が止まったように感じた。ぼうっとして二人を見た。絵を見ているかのようだった。私の体も限界にきていて、機能が鈍くなっていたのだ。これではいけないと思い、重い体を起こして台所に行き、煮沸消毒していない冷たい水を一気に飲んだ。(つづく)

2022-02-09 0面
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