寒さが厳しい冬は、韓国料理が一段とおいしく感じる。
7年前の2月、旧正月が終わるころ河東の帰りに釜山で1泊した時のこと。一緒にいた友人とテジクッパの店に行こうということになり、専門店へと向かった。真冬だが、大都会らしく通りは足早に行きかう人々で賑わっていた。
釜山に来たら名物のテジクッパを食べる、と話していた友人はお目当ての店に入るや否や「どうして釜山名物なの?」と聞いてきた。「あのね」と話しだそうとした時、店の人が「2人分?」と聞きに来た。続きを話そうとすると、テーブルにカクテギや白菜のキムチなどが運ばれてくる。「早い。さすがは韓国だね」と会話をしているうちに熱々のテジクッパが運ばれてきた。
テーブルに用意されているセウジョ(アミの塩辛)やタデギ(韓国の味噌に唐辛子や玉ネギ、ニンニク、胡椒などを入れた合わせ調味料)を入れる。かき混ぜて味を見ながら、好みで塩や粉末状の唐辛子などを加え、ご飯と一緒に。冷え切った身体の隅々まで温かいスープが超スピードで到達する。淡泊な味のスープとご飯に、ピリ辛感とマイルド感が入り混じったタデギが融合して何とも美味しい。やはり本場の味はどこか違う。
| じっくり煮込んだ濃厚なスープが特徴のテジクッパ(写真提供=韓国観光公社) | テジクッパは豚骨スープにご飯を入れた食べ物。スープが出来上がるまで2日ぐらいかかるほど手間ひまがかかる。栄養価が高いのはもちろんのこと、セウジョと一緒に食べると消化を助け、さらに大根や白菜のキムチがあれば文句なし。
釜山の名物と呼ばれるようになったのは、1950年に起きた朝鮮戦争の時に北から避難してきた人たちが、現在の国際市場(釜山市内にある大きな市場)でテジクッパを売り始めたことから広まったという。市場で忙しく働く人には簡単に食べることができて、しかも栄養価が高いこともあって喜ばれたという。
友人もテジクッパで身体がポカポカしてきたのだろう。「美味しいね」を連発しながら、「スープの中にご飯を入れて食べるのって行儀悪くないの?」と質問をしてきた。
「それは、文化の違いで『韓国の料理文化史』(李盛雨著・平凡社刊)によれば、スープの中にご飯を入れて食べるというスタイルは、1800年代から朝鮮半島にはあったみたい。日本だとラーメンを入れているけど」と話すと、「そうか。豚骨スープにチャーシューが入っていて、ご飯。それにこのエビの塩辛と味噌のようなタデギにキムチ。この海苔も。栄養のバランスが凄いね。さっき説明してくれた時、忙しい人にも向いているけど体調が弱っている時にもいいね。なんだか凄いね」と感心している。
「初めて食べた?」と聞くと、「前に食べたことはあるんだけど、あんまり記憶がなくて。今回、釜山に寄るって言ったから名物ならと思って」。
友人は帰国する前にもう一度、来たいと。店の人がサービスにとヤクルトを持ってきてくれた。テジクッパで十分だったが、遠慮なくいただいた。日本から訪れる人がとても多いこと。手間ひまをかけて、灰汁をしっかり取らないと美味しいスープにはならないこと。味が悪くなったら喜んでもらえないからと。
店を出る時、「寒いから気を付けて。夕方からはアスファルトが凍っているところもあるから」と優しいことば。
韓国の旧正月もそろそろ。テジクッパの優しい味が恋しくなってきた。
新見寿美江 編集者。著書に『韓国陶磁器めぐり』『韓国食めぐり』(JTB刊)などがある。 |