韓国の会計事務所で駐在員をやっていた私は、日本人の苦情承わり係のような側面がありました。日本人の駐在員が口にする不満の中で最も多かったのが、
「李さん、どうして韓国人はこれだけ勝手なことばかりするんだ?」
というものでした。この発言を逆に見ると、日本人は言われたことしかしない、と言うことになります。
日本人は命令されたことしかせず、韓国人は命令されてないことまで気を利かせてやります。常に外国からの侵略を受け続けてきた韓国では、戦場で指揮官が死に、命令系統が失われても、それでも戦わなければなりませんでした。上からの命令を待っていたのでは自分たちは死んでしまいます。それで自分の判断で動くのです。
日本軍は指揮命令系統があれば、兵をどれだけ損耗しても徹底的に戦います。日露戦争の二○三高地の戦いでは兵の損耗率は八割を超えたと言われています。普通は二、三割の損耗で部隊を交代させたり捕虜に成ったりします。この数字は日本軍の強さを示しています。ところが指揮命令系統が失われると、ジャングルを彷徨うだけの烏合の衆になるし、ソ連が攻めてくると民間人を置き去りにして一番最初に逃げ出したりします。しかし韓国人は、指揮命令系統が失われると、全員が瞬時にゲリラになります。ゲリラ戦でも追い込まれてしまうと、今度はさっさと捕虜になって後方撹乱をします。戦い方にこれだけの差があります。韓国人が勝手なことをするのは、自分たちの存亡に関わりますから、全否定をするのは良くありません。私は駐在員になる前から韓国人のこういう特性は理解していましたから、以下のように対応しました。
私は会計事務所から出る日本語の文章の最終チェックをしていました。ある文章を修正して日本語が出来る女性スタッフに回し、パートナーに呼ばれたのでそこで話をし、戻るときにふと女性スタッフの机を見ると、私が指示してない語句が含まれています。
「これはどうしたの?」
「こっちの方が良いと思ったものですから」
日本人ならこの時点でぶち切れますね。お前の判断なんか聞いてない! と言うでしょう。しかし私は、
「あなたが判断するのは良いことだ」
と先ずは判断すること自体は肯定します。そして次に否定に入ります。
「しかしこの文章で何か問題が出た場合、責任を取るのは私だ。あなたは責任を取らない。そうであるならば、あなたはこの修正について私に報告あるいは同意を得るのが妥当ではないのか?」
「はい」
「こちらの方が良いと言うことを今からでも説明してもらいたい。私が納得できたら、これで行こうと思う」
「説明できません」
「ならばこの部分を私が指示したように元に戻すべきだと思うが、あなたはどう思うか?」
「そうした方が良いと思います」
「じゃあ、そうして下さい」
その後、彼女は二度と勝手なことはしなくなりました。もっとも私が知らないところでやっていたかも知れませんが。
ともあれ、韓国人が勝手なことをした場合は、全否定をしてはいけません。部分否定をすべきです。判断をすることはいいが、この局面でのあなたの判断は妥当ではない、という説得の仕方です。この方法で言うことを聞かない韓国人は、まず居ないでしょう。エセ寅次郎なら分かりませんが、残りの95%は理解してくれると思います。日本人は韓国人の行動パターンが理解できなくて苛つきますが、歴史を理解すれば理解できます。理解できれば協力できます。
李起昇 小説家、公認会計士。著書に、小説『チンダルレ』、『鬼神たちの祝祭』、古代史研究書『日本は韓国だったのか』(いずれもフィールドワイ刊)がある。 |