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2020年03月11日 00:00
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ノースコリアンナイト~ある脱北者の物語~26 伝染病が発生しても誰にも頼れず、どこにも救いのない国

たんぽぽ

 いま、世界中が昨年12月末に中国武漢市から発生した新型肺炎の感染拡大で、パニック状態に陥っている。各国当局の発表に基づきAFP通信とWHO(世界保健機関)がまとめた統計によると、日本時間2020年3月7日午前2時時点での世界の新型コロナウイルス感染者数は、92カ国・地域で10万842人に達し、うち3456人が死亡している。
世界は今日までいろいろな伝染病を経験し、その経験がわれわれを生かしている。WHOを含む各国・各機関の対応に、また経済大国で今回感染症の発生地である中国の対応に、そして日本を含む先進国の対応に、私の低い目線では理解できない部分もある。いつ終息するのか毎日不安だが、みんなで力を合わせれば乗り越えられると信じる。
中国に一番近い国である北朝鮮は、いつもと同じく国際社会と疎通をしない。感染者は何人だとか死者は何人だとか、感染症に対する対策を見ればさすが金氏一族と言ったところだが、もっとも心配なのは祖父(金日成)と父(金正日)のように感染者を無惨に処理しないかだ。
私が知る限り北朝鮮当局は国内でも情報共有をしなかったし、感染症に対処する能力も意思もなかった。衛生環境と栄養状態が悪い北朝鮮では、1995年以降の経済難に陥ってからいろいろな伝染病が以前より蔓延していた。伝染病が発生しても病原菌を分析するシステムがないので、病院に行くと医者が問診したり熱を測ったりして、病名を告げられて終わりだ。不安になって他の病院に行くとまた違う病名を言われるので、最初から病院に頼らないで自分でアヘンを使って治療するのが普通になっている。北朝鮮でアヘンは家庭の常備薬であり万能薬だ。
病院に薬はないので、医者に書いてもらった処方箋を手に個人の闇薬局に行くのだが、お金がない人は薬を買えないし、買えても中国から入った不法製造の薬で効果があるかわからない。病院にある薬は国際支援で入った薬が多く、幹部用とお金持ち用で、目の前で死んでいく患者がいてもその「所蔵薬」は対象者以外には絶対使わない。量に余裕がある時は個人の闇薬局か国境沿線の中国に需要があるので、そっちに回して稼ぐのだ。その中で、高いけど少し安心できる薬は医者が売っている薬だ。
伝染病が発生した初期には衛生防疫所と軍隊が派遣され、発生地域を封鎖して消毒剤を撒いたりする。しかし拘束時間が長くなると派遣された人たちの食料が調達出来ず、また派遣された人たちは防疫服などないため、病気がうつるのが怖くて逃げてしまって、封鎖地域の人は食べ物などを手に入れるためにあっちこっち行くからどんどん広がるのだ。
一番ひどい状況は伝染病で死んだ人の死体処理だが、その中でもひどいのは軍隊と教化所(刑務所)での死体処理だ。劣悪な環境の軍隊内で伝染病が発生するとすぐ集団死につながり、これは極秘である。地面を掘って死体を全部その中に入れ、火葬して掘り出した土を盛って墓を作る。墓を作るところはマシで、墓がないところも結構ある。亡くなった人の家族には、時間がある程度過ぎてから「戦死者家族」証書と一緒に伝達した。生活に余裕がある家族は墓所に行ってみるが、そうではない家族は「戦死者家族」証書と写真で法事を済ませていた。
昔は「戦死者家族」証書でコメや食用油を国から少しもらったけれどそれは1990年以前のことだ。
何年も経ってから子どもの死因を知って、なぜ病気に罹った時に家に帰してくれなかったのかと部隊に抗議をしながらもう一度泣き崩れる家族を見て、金氏一族に天罰を与えない空が残念で仕様がなかった。
軍隊のような実態はあちこちで見られ、教化所(刑務所)はよりひどいし、国中が同様だった。
このくらいになるともはや人と動物の価値観など区別がなくなって、ただぼうっとしてしまうのだ。
日本へ来て、犬や猫などのペットに対する社会的な認識を知って頭を強く打たれたような気持ちになり、北朝鮮の人権問題の深刻さに気づいた。
今回は、北朝鮮で今までと同じことが起きないことを願うばかりだ。

2020-03-11 4面
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