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2020年02月27日 00:00
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韓国スローフード探訪29 薬食同源は風土とともに
まさに薬食同源 伝統茶と菓子
店の中はオンドルで暖かい
平年よりも早い春一番が吹いた。桜の開花も今年は例年より早く報道される中、コロナウイルス感染が広がっている。手をよく洗い、マスクをする、人込みを避けることぐらいしか身を守る方法もない不安な状態が続く今日このごろ。
厳冬期の韓国取材で何度か体調を崩したことがある。喉がイガイガするような風邪の初期症状だったこともあって、伝統茶の店に立ち寄り、必ずと言っていいほどユズ茶とともに伝統菓子をいただいた。そんな経験があったからか、冬のお茶時間は伝統茶を選ぶことが多い。訪れる店は2軒ある。どちらも靴を脱いで上がるスタイル。店内に足を踏み入れた瞬間、「あったかい」と言葉が出てきてしまうオンドル部屋だ。
昨年の晩秋に出張でソウルへ出かけた。厳しい寒さではないとはいえ、東京よりはかなり寒かった。仕事をさっさと切り上げ、風邪の予防にといつもの伝統茶の店へ向かう。オンドルが恋しかった。お茶とお菓子を待つうちにお尻のあたりからジワジワと暖かくなり、寒さでかたまってしまった身体が次第にほぐれていく。なんとも言えない気持ちよさなのだ。心身ともにリラックスしたところに、ユズ茶とお菓子が運ばれてくる。
「喉には一番いいから。寒いでしょ、ソウルは」と、店主の奧さんが声をかけてくれる。覚えてくれていると思っただけで、さらにほっこりと。奥さん手作りのユズ茶は、たっぷりのユズと蜂蜜を使ったもの。ほんのりとした甘さと酸味。そして香りが何ともいえない。まずはひと口、ゆっくりと飲む。五臓六腑に染み渡る。さらにもうひと口。オンドルで暖まった身体が今度は内側から徐々にポカポカしてくる。
焼きたての香ばしい香りがするトックを蜂蜜につけていただく。とてもシンプルなのだが旨い。ユズ茶に入っているユズの皮もしっかりと食べる。ユズ茶も残り少なくなってしまっているが、お菓子はもう一種類、ヤックァ(薬果)がある。このお菓子は蜂蜜で作ったと言っても過言ではない。酸味のあるユズ茶と一緒にいただく。蜂蜜の甘さとユズの酸味、シナモンの香りもかすかに。
香り豊かなユズ茶と伝統の薬菓
韓国の伝統菓子のひとつヤックァは、朝鮮王朝時代に王室や貴族たちの間で盛んに食されたと言われている。蜂蜜は高価だったために、庶民には手が届かなかっただろう。
2002年に、ソウルにある韓国伝統飲食研究所所長で大学教授の尹淑子先生に伝統菓子の指導を受けた。その時にヤックァがいかに贅沢なお菓子なのかを学んだ。このお菓子は、小麦粉に蜂蜜や生姜汁、シナモン、塩などを混ぜた生地を型抜きし油で揚げる。揚げたら余分な油を抜きながらさまし、用意しておいたジップチョン蜜(蜂蜜にシナモン、ユズを入れたもの)に一晩つけてから取り上げ、松の実をふりかけて出来上がる。正月や祭礼、婚礼、宴席には欠かせないものとされてきた。
ユズ、蜂蜜、シナモン、生姜汁、松の実などなど。材料を並べただけでも「身体によさそう」と思ってしまう。韓国でいただく伝統茶と伝統菓子の世界には、さまざまな食材が細やかに作り出す薬食同源がしっかりと根付いている。
新見寿美江
編集者。著書に『韓国陶磁器めぐり』『韓国食めぐり』(JTB刊)などがある。
2020-02-27 5面