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2019年10月02日 00:00
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キスン便り<第3回> 名前の発音と先祖の出身地グループ
李起昇


今回は名前の発音についてです。私の名前は「イ キ スン」と発音します。「李=り」なのに「イ」です。韓国語はアルタイ諸語に属しており、語頭のラ行が脱落するという規則があります。で、「リ」の音が脱落して「イ」と発音します。同じく「柳、劉(リュウ)」は「リ」が脱落して「ユ」と発音します。ということで大韓民国、朝鮮民主主義人民共和国(以下共和国)の成立までは「リ」と書いて「イ」と発音していました。これは日本語で「私は」というときと同じです。「私は」の「はha」は「wa」と発音します。目に見える文字は「はha」ですが出て来る音は「wa」です。これと同じで独立するまでの朝鮮では「riり」と書いて「iイ」と発音していました。
独立後の共和国の国語審議会では、「リと書いているのだからリと発音しよう」と言うことになりました。対して韓国の国語審議会では「イと発音するのだからイと書こう」と言うことになりました。こうして同じ民族なのに共和国では「リ」と発音し韓国では「イ」と発音するようになりました。韓国語と朝鮮語が違う道を歩き始めたわけです。
ですから韓国語で自己紹介をする時に「李」を「リ」と発音する人は共和国の教育を受けた人です。「イ」と発音する人は韓国の教育を受けた人です。発音を聞いただけでどういう人かが分かります。
私は韓国人以外には「リ」と言っています。元々の言葉は「リ」と書きながら「イ」といっていたわけで、どちらも正しいのです。それに「李」の英語表記は「Lee」ですからね。「イー」さんは欧米に行くと「イー」ではなく「リー」さんになるのです。どちらも正しいで良いじゃないの、ということで私は「リ」と名乗っています。ただし会計士協会の名簿には「イ」で登録しています。お陰で初めて会う会計士からはニセ会計士ではないかと何度も疑われました。名簿の「リ」の欄に私の名前がないからです。その度に「イの欄にあります」と説明することになります。
さて、私の李は「全州李」です。これは全州出身の李さんということです。他に慶州の李さんや青海の李さんなんかも居ます。韓国には李さん金さん朴さんがたくさん居ますが、同じ姓でも先祖の出身地で家、というかグループを区分します。この先祖の出身地のことを「本貫」といいます。短く言うと「本(ポン)」です。
韓国には長い間同姓同本の者同士は結婚してはならないという決まりがありました。これは全州の李さん同士は結婚してはいけ無いと言うことです。大韓民国成立後は民法にも規定され、結婚が禁止されました。全州李氏の場合、紀元五百五十年頃から始まっています。それだのに千五百年後の子孫同士が結婚できないという規程を設けました。十代経つと血の濃さは1024分の一になります。科学的には根拠のない制度です。
同姓同本同士で恋愛関係になり、子供が生まれると、父親不明の子として役所に届けるしかありません。家には父親が居るのに、父親不明の子になります。さすがにこれはまずいだろうと言うことで、二千年になる前頃だったと記憶していますが、民法が改正され、同姓同本でも結婚できるようになりました。
本貫が同じ人達の一族の長老が集まる会議を宗親会(チョンチネ)といいます。宗親会では系図を整理したり、何代目には何という漢字(トルリムチャ)を使う、ということを決めます。大きな所は財団化しています。
系図を見ていると色々と発見があります。私の家の系図だと、日本の植民地時代の男たちは、多くが早死にしています。これも一つの統計データだろうと思います。
 李起昇 小説家、公認会計士。著書に、小説『チンダルレ』、古代史研究書、『日本は韓国だったのか』(いずれもフィールドワイ刊)がある。

2019-10-02 5面
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