洪熒・本紙論説主幹
李秉喆は朴正煕副議長に話し続けた。
「企業人なら誰でも利益を上げ企業を拡大するため努力します。いわば、企業をうまく運営してそれを育ててきた人々は不正蓄財者として処罰の対象となり、援助金や銀行の融資を受けてそれを浪費した人々には罪がないとしたら、企業の自由競争という原則にも反します。不正蓄財者の処罰にどういう政治的意味があるかは知りませんが、あくまでも企業を経営する人の立場を申し上げただけです」
朴副議長は「では、どうすればいいですか」と尋ねた。私はこう答えた。
「企業人の本分は、多くの事業を興し、多くの人々に働き口を提供して彼らの生計を保障する一方、税金を納めてその予算で国土防衛はもちろん、政府の運用、国民教育、道路や港湾施設など、国家の運営を支えることであると思います。いわゆる不正蓄財者を処罰すれば、その結果は経済の萎縮として現れるはずです。こうなれば、直ちに税収が減り国家の運営が打撃を受けます。経済人たちに経済建設の一翼を担うようにするのが、国家の利益になると思います」
朴副議長はしばらく、私の話に共感して聞いていたようだったが、そうなれば国民が納得しないはずだと言った。私は国家の大本のため必要なら、国民を納得させることが政治ではないかと言った。室内は沈黙が続いた。しばらくして笑顔を浮かべた朴副議長は、もう一度お話したいと言いながら今どこにいるかと尋ねた。メトロホテルで軟禁状態でいると言ったら、驚いた様子だった。翌朝、中央情報部の李秉禧ソウル分室長が来て、「もう家に帰ってもいい」と言った。「他の経済人たちも全員釈放されたか」と訊いたら、まだそのままだという。「彼らはみな私と親しいだけでなく、不正蓄財者の1号である私だけがホテルに泊まり先に出たら後日、同志たちに面目が立たない。私は彼らと一緒に出る」と断った。(以上、『湖厳自伝』から)
朴正煕は最高会議法司委員長の李錫済を呼んだ。「経済人たちはもう十分気を引き締めたはずだから釈放したらどうか」
「なりません。まだ不十分だと思います」
「まあ、ちょっと君、もう私たちが権力を取った以上は国民を腹いっぱい食べさせるべきではないか。われわれが以北よりも乏しい経済力を持ってどうするつもりなのか。何と言っても、ドラム缶を叩きのばして物を作ってきた人々が彼らではないか。もうそれほどやって彼らも分かるようにしたら良いから、これからは国家の経済復興に彼らが働くように使おうではないか」
李錫済は翌日、釈放された企業人たちを最高会議の会議室に集めてこけおどしをかけたという。腰から大きなリボルバーを抜き、テーブルの上にずどんと音が出るほど置いてこう怒鳴ったという。
「私は皆さんの解放に反対しました。それでも朴副議長が言ったので釈放はします。しかし、今後、援助物資や国家予算をもって再びふざけたら、私の次の世代、私の後輩の軍人たちの中から私のような者が出てみな撃ち殺します」
6月29日の朝、李秉禧ソウル分室長が来て李秉喆社長に企業人たちが全員釈放されたと伝えた。軽い気持ちで帰宅した李秉喆は自ら記者会見をし「国民を貧困から救い、国を共産侵略から救うため全財産を献納する」と発表した。(つづく) |