国際社会の対北制裁が思わぬところで副作用をもたらしている。ソウルに居住する40代の韓国人女性キム・ジョンウンさんが、あの金正恩と同姓同名であることを理由に、海外の金融機関から「制裁」を受けているのだ。
韓国の新韓銀行などによると、ソウルに居住するキム・ジョンウンさんは7月10日、南アフリカ共和国に住む姉に3000万ウォン(約280万円)を送金した。女性の姉は13年前に南アフリカに移住。最近永住権を得たため、キム・ジョンウンさんは、姉に住宅購入費用の一部を送ったのだという。
しかし、3~4日で届くはずの金が20日過ぎても南アフリカに届かず、キムさんの姉は契約した住宅を購入できなかった。キムさんの要求に応じて新韓銀行が確認したところ、送金した金は米ニューヨークの銀行にあった。南アフリカの銀行が、送金人の名前が「キム・ジョンウン」であることから「テロ資金」の疑いがあるとして、金を米国の銀行に送り返したのだ。米国の銀行は通知を受け、テロとの関連について調べに入ったとされる。
新韓銀行側は「米国の銀行に身元確認書類を再び送付した。送金が遅れて不便をかけていることを遺憾に思っている。ただ、こちらとしては速やかに処理するよう繰り返し要請すること以外、できることはない」としている。しかし、姉の不動産取得が破談になってしまったキムさんは納得いかない様子だ。
業界によると、対北制裁が強化されてから、似たようなケースがたびたび起きている。朝鮮中央通信の英語版は金正恩を「Kim Jong-un」と表記しているが、「Kim Jeong-un」などの表記も確認の対象になるという。業界関係者は「米国ではテロ資金と関わる罰金が大きく、現地の銀行は徹底的に調べる」と話す。
専門家は、「調べればすぐに別人とわかるはず」と指摘する。一方で「こうして徹底的に制裁を履行することが、北韓にとっては大きなダメージになる」と話す。米国の金融機関の制裁対象になることは、世界中の金融システムから排除されることとほぼ同義だ。各国で高官の亡命が増えているといわれるが、金融機関を使えないため高官に多額の現金が預けられることが、亡命へのハードルを下げているという。ソウルのキム・ジョンウンさんには気の毒な話だが、同姓同名の金正恩さんはもっと困るということなのだ。 |