アメリカはワシントン州に、レーニア山という4000メートル峰がある。有名なコーヒー飲料のブランド名にもなっており、雪を冠した山のイメージでおなじみであろう▼明治期から昭和初期にかけて、レーニア山を望む港町タコマは日系移民の上陸地となった。誰がいつから呼び始めたか、レーニア山は「タコマ富士」と呼ばれるようになった。コーヒーのパッケージに描かれた山を思い浮かべればわかるが、タコマと本家の富士は決して似ているとはいえない山容である。であるがゆえに、移民たちの郷愁がうかがえよう▼「地域の名称+富士」というのは日本中にある。羊蹄山は蝦夷富士、磐梯山は会津富士、あの桜島でさえ筑紫富士という異名を持つ。いわゆる郷土富士である。富士山が信仰の対象となるにつれて各地に広まったといわれる▼その富士山が1日に山開きを迎えた。近年は外国人の登山者も増え、週末にもなると頂上付近で”渋滞”が発生するのが珍しくなくなった。今や市民権を得た「インバウンド」という言葉だが、富士山もアウトバウンドの時代からインバウンドの時代に移ったということだろうか▼今年から8月11日が「山の日」となり、祝日に加わる。山を楽しむのは結構だが、遭難者も増えていると聞く。安全には細心の注意を払って楽しんでもらいたい▼ところで、富士塚という築山が関東近県にいくつかある。富士山に登った気持ちで…というやつだ。体力に自信のない方、時間のない方にはこういう山の楽しみ方もある。 |