「不当な差別的言動はあってはならず、こうした事態をこのまま看過することは、国際社会において我が国の占める地位に照らしても、ふさわしいものではない」。5月24日に成立した、いわゆるヘイトスピーチ対策法案の前文の一部だ▼「国際社会における日本の占める地位」という言葉を聞いて、日本各地で行われていたヘイトスピーチを伴うデモが、同時期にぱたりと下火になったことを思い出す。確か当時は、東京五輪の開催が決まるかどうかという時期だった▼「ヘイトスピーチが野放しになっている国」と見られれば、招致活動への影響は免れまい。こうして、がなり声はコリアンタウンから遠ざかった。まるで申し合わせたかのように、一斉にデモがなくなったことへの不可解さは今も残る▼法案の不備を指摘する声は少なくない。例えば「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた…」とうたっていることだ。国内の被差別部落出身者やアイヌの人たちの一部にとっては、不十分なものだろう。罰則が定められていないことも、実効性に疑念を抱かせる▼今回の法案は、実質的に在日韓国・朝鮮人を念頭に置いた法といえる。法制定を求めたのも在日韓国人と、彼らの支援者だった。ややもするとヘイトスピーチをする側だけに目が向きがちになるが、彼らは日本人のごく一部にすぎない。差別に反対する人の方が多いことを忘れてはならない。憎悪表現が新たな憎悪を呼んでしまっては、今法案の価値も失われるというものだろう。 |