金成昱
7才の息子のために子供偉人伝1セットを買った。最も読まれている本の一つだそうだが、現代史の偉人の中に金九はあっても李承晩と朴正煕はない。驚くべきことは尹伊桑だ。(株)キタン教育が出版したこの全集は50人の偉人伝で構成されているがその1人が｢統一を夢見た音楽家・尹伊桑｣だ。
この本は尹伊桑を、｢最後まで祖国を愛して音楽を通じて祖国の統一のために努めた音楽家です｣と記している。尹伊桑が連累した1967年の東ベルリン事件に対してはこういう説明を付け加えた。
｢東ベルリン事件とは? わが国に不利な韓日修交と大統領不正選挙が相次いだため国民は抵抗運動を始めました。すると政府は国民の関心を他に向かわせるために偽りでこの事件を捏造しましたよ...尹伊桑は捏造された‘東ベルリン事件’のため死ぬまで祖国の地を踏むことができない不幸を味わいました。｣
｢彼は、祖国を愛したが古墳壁画の‘四神図’を見るため北韓に行ってきたことでスパイの寃罪で悔しくも監獄生活をしました。監獄から釈放されてからはドイツに帰って一生そこで住みました。尹伊桑が祖国を訪問しようとする時ごとに政府であれこれの口実で許さなかったためですね...そのように尹伊桑は死ぬ直前まで祖国を愛し恋しがりましたよ。｣
｢韓国の刑事たちは誰も気付かないように尹伊桑を韓国へ連れて来ました。『私はただ音楽を愛する作曲家であるだけです』、『嘘を言うな! お前は北韓スパイだろう?』尹伊桑がいくら真実を言っても効果がありませんでした...刑事たちは頑として尹伊桑をスパイと決め付けましたよ。｣
この本を読むと朴正煕政府は｢わが国に不利な韓日修交｣をし、｢大統領不正選挙を相次いで行い｣、｢偽りの(公安)事件を捏造し｣、｢愛国者の尹伊桑にスパイの汚名をかぶせ｣、｢頑としてスパイに決め付けた｣邪悪な政権だ。反面、尹伊桑はあらゆる逼迫の中でも大韓民国を最後まで愛した愛国者だ。
子供を相手にしたこの恐ろしい叙述はもちろん事実でない。尹伊桑は東ベルリン事件後も北韓を17回(確認された回数)以上行き来しながら死ぬまで親北性向の団体と利敵団体である｢汎民連｣などで活動した。尹伊桑は1992年の｢呉吉男スパイ事件｣でも｢北韓の対南工作員｣として確認された人物だ。
尹伊桑は、北韓の資金をもらって在独韓国学術研究院(KOFO)などを作り、金日成に会って金日成75回誕生日への贈り物として｢わが地、わが民族よ｣という歌を献呈した。
金日成は、尹伊桑を激賛してきた。例えば、2000年に北側が出版した金日成教示集｢在西ドイツ僑胞・尹伊桑一行との談話｣、｢在西ドイツ僑胞・尹伊桑との談話｣などによると、金日成は尹伊桑が｢祖国統一の偉業に大きな功績を上げた｣として彼を｢祖国統一を実現するために活動する愛国志士｣と激賛した。
尹伊桑が、｢祖国統一のためこれから力と才能をすべて捧げると言った｣という金日成の言及も出る。
北韓政権は尹伊桑を｢愛国者｣と称賛しながら、尹伊桑音楽堂、尹伊桑音楽会、尹伊桑音楽研究所などを作って運営中だ。｢音楽研究｣の2000年28号など北韓の文書には、｢尹伊桑先生は熱烈な愛国者｣、｢愛国・愛族の衷情で燃える尹伊桑先生｣、｢敬愛する将軍様が尹伊桑先生の愛国衷情を推し量って尹伊桑音楽研究所を設けて下さいました｣などの内容が頻繁に出る。
北韓の｢文学芸術出版社(主体92(2003)年出版)｣が出版した｢永遠の追憶｣というパンフレットには、金日成死亡の時尹伊桑が書いたという手紙も収録されている。尹伊桑の手紙は｢末永く冥福を祈ります。果てしなくわが民族の光栄を守って下さい｣、｢われわれ歴史上最大の指導者である主席様の意を一層称賛し一日も早く統一の前途に邁進することを確信します｣など金日成への称揚一辺倒だ。
尹伊桑は金日成に忠誠しながら生涯を通じて反大韓民国活動をやってきた人物だ。彼が追求した統一は大韓民国の自由民主主義の統一でもなく、彼が指向した愛国の対象も大韓民国ではなかった。
北韓政権の対南赤化工作に力を尽してきた人が、建国と富国を成し遂げた指導者までも抜いて子供偉人伝に登場するのが今日の韓国の現実だ。政府が何もしないなら誰かが出て正さねばならない。
問題の偉人伝は｢2009大韓民国教育経営大賞｣を受賞した。
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最終更新日: 2024-04-23 12:41:29
