福島第1原発の放射能漏れ事故が長期化の兆しを見せる中、各地で放射性物質が観測されている。政府や原子力保安院の見解では、基準を超える濃度でなければ問題ないとの説明だが、過去に十分なデータがない事象だけに、確実に安全と言い切れないのが事実だ。臨床および衛生検査技師の長谷川久氏に聞いた。(聞き手=溝口恭平) RO膜利用の浄水に期待 放射性物質が拡散している今、まず重要なのは汚染されていない水の確保だ。冗談ではなく、一番いいのは遠くに逃げることなのだが、天候や風向きなど不確定要素もある。特にこれからは台風の到来も考えられる。現実的にはできるだけ遠方の生産拠点で安全な水を確保することが最優先されるだろう。 ヨウ素やセシウム、コバルト、最近ではプルトニウムまで放射性同位体(構造が不安定で、崩壊する際に放射線を発生する原子核)が検出されている。これらは人体に摂取されることを前提としていないので、汚染された水をいかに現状の水道局が浄化しようとも根本的な解決方法にはならない。 特にプルトニウムは猛毒。放射性物質について「何ベクレルまでなら安全」という専門家がいるが、どこからデータを取ってきて話をしているのかわからない。十分なデータなど考えにくい。チェルノブイリを例に出しながら人体の許容量などを解説する人もいるが、日本人とでは人種に差があり、前提とする環境も違う。これは前例なき災害なのだ。 医療における「安全性」の定義は非常に重い。軽々しく使えるものではない。 では、前例なき災害にいかに対処するのか。 食品の汚染は完全に防げるものではないが、放射性物質を薄めることはできる。そのために必要なのが「安全な水」だ。 水の浄化技術にRO膜というものがある。海水、つまりナトリウムと塩素をこして淡水にする際に使われることが多いが、ナトリウムも塩素も原子核はヨウ素などよりも小さい。 理科の時間に習う元素周期表を思い出してもらえばいい。水素、ヘリウム、リチウムと始まって、ナトリウムは11番目、塩素は17番目。53番目のヨウ素、55番目のセシウム、さらに94番目のプルトニウムはより原子が大きい。ナトリウムも塩素も通さないRO膜なのだから、理論上は効果がかなり期待できると考えられる。 ただし、使用したRO膜をどこにどう廃棄するか、いかに数百、数千万人の需要を満たす供給量を確保するかは課題だ。 放射能の拡散状況を把握するために観測地点を増やし、モニタリングも強化してほしいと願う。何度もいうが、放射性物質が拡散し、飲食物から人体に取り込まれる可能性が生じることなど想定されていなかった。観測地点も機器も十分とは思えない。 原子力の専門家、医学の専門家、公衆衛生の専門家、物理・化学分野の技術者、ありとあらゆる分野の専門家を集めて対応を協議すべきだろう、今までになかった事態なのだから。海洋への影響、気象、農業への影響、それぞれの分野でも未曽有の事態であり、その知識を総合してはじめて包括的な対策ができる。 とにかく、必要なのは安全な水の確保。飲み水としても洗浄用としても必要だ。そしてむやみに安全であると断言・信用しないこと。認識が十分でないのに安全だといいきるのは問題であり、正確な情報からその弊害を予防することが本来の衛生であると確信している。政府や関係者は、放射性同位体の危険性を認め、大胆な対応をとってほしい。もしも今後の訴訟や賠償責任を考えているなら、むしろ情報を徹底的に開示せよといいたい。 工業用水・農業用水にしても、対応が後手に回るほど被害が大きくなることは想定できる。治水に関する考え方を抜本的に考え直さなければいけない。 |