対北制裁で崩壊する経済
―国際社会の対北制裁が本格化し始めたがどうなるのか。
洪 「一部の政治学者は対北経済制裁が中国の支援で失敗する、あるいは効果がないと分析しているが、同意できない。世界経済は様々な国が複雑に絡みあっているから、断片的に捉えるのは不可能だ。過去日本が対北貿易を禁止した後、北韓は第2の輸出先だった日本への輸出がゼロになった。北韓は日本に売っていた水産物を中国に売ろうとしたが、中国は単価を下げた。収益率は急激に悪化し、それはほかの商品にも拡大した。中国に頼みこんで、薄利多売の商売をせざるをえなくなったわけだ」
金 「今回米国は、行政命令を出して対北制裁に取りかかった。これは精巧な“オーダーメード型制裁"といえる。相当期間持続的に制裁を加えるという意志表示でもあると思う。中国と北韓は、国連で天安艦問題が終わったのだから6カ国協議を開こうと呼びかけているが、開催は困難だろう。核放棄に対する真摯な態度、天安艦事件に対する謝罪と再発防止策が出ない限り、制裁が解かれることはないと思う」
洪 「今後北韓は信用取引ができなくなる。品物の代金は現金で決済しなければならない。それか物々交易だ。これはたやすいことではない。北韓としては金剛山観光の代金や開城工団労働者の賃金のように、売り上げと純益が100%手に入る事業は消えたので、貿易で収入を得なくてはいけないのだが」
―米国の制裁対象になった金融機関の半分以上は中国の銀行だ。制裁効果が半減するしかないのではないか。
金 「中国は対北制裁に協調しないだろうから、効果は半減する。しかし、中国の銀行が北韓以外と取引をする時、北韓との取引関係はネックになりうる。BDA(バンコ・デルタ・アジア)のケースでも立証されたはずだ」
―対北制裁の論議の中で『北韓の政権交代』が話題になったが、その意味は。
金 「韓国政府が北韓の政権交代をするという政策は望ましくない。ただ、過去10年間の親北左派政権は、住民の利益を害し、弾圧する金正日政権を支えてきた。北韓政権には直接介入せず、交代に備えることが必要だ。米国は北の核が危険水位を突破すると見れば『政権交代が望ましい』と思う可能性がある」
洪 「米国は北韓問題を北東アジア安保戦略の延長線上で見ている。政権交代のみを見てはいないだろう」
金正日体制の終息と中国
―金正日体制が終息すれば、統一の機会が来るといわれている。一方、現在の南北関係は戦争再開直前ともいわれているが、その可能性は。
| 天安艦事件後に訪中した金正日は、予定より早く帰国した | 金 「全面戦争の可能性は低い。中国抜きで北韓単独では不可能だ。戦闘があったとしても局地戦になる可能性が高い。核の使用も事実上不可能だ。韓米防衛体制も強化されている。北韓の挑発を事前に察知して対応するだろう。滅びるのを覚悟で相手を滅ぼしにかかるのは、口で言うほど簡単ではない」
洪 「北が無謀な集団だといっても、中露の同意なしに戦争はできない。ところで注目すべきは天安艦事件後に行われた金正日・胡錦涛の中朝首脳会談の結果だ。当時の合意文書に含まれた内政干渉の内容には、少なからぬ意味がある」
洪 「金正日は滞在日程を早期に切り上げて帰った。耐えられないほど不快だったに違いない。内政干渉がその原因だろう。不快だが合議せざるをえなかった。中国は、今後北韓が行う主要事案は中国の承認を得てからせよとのメッセージを送ったと思う」
―天安艦事件では中国の北韓に対する確固たる支持が確認された。
金 「確かに。中国は北韓の危機を望まない。北韓政権崩壊を阻む中国のスタンスは続くだろう。ただ中国は、天安艦事件で他国との間に悩みの種を残した。温家宝首相が5月末、韓国の金炯〓国会議長に会った席で『正義を実現する国になる』と話し、国連の対北制裁案では無条件に北韓の肩を持たないと述べたのはその発露だ。韓国はこの好機を逃さず、中国を説得する知恵を発揮すべきだ」
―好機とは具体的に。
金 「中国は世界的に非難されている金正日政権に経済支援をしている。犯罪者をかばっているようなものだ。米国とともにG2としての指導力拡大を願う中国としては、実にやっかいな問題だ。中国に『韓国は非常に重要な存在で、国益になる存在だ』と思わせなくては。92年の韓中国交正常化以降、韓国の近代化をモデルにした中国は、年平均9・8%の超高度成長を遂げている。統一されれば中国大陸と韓半島が直に結ばれ、経済交流が拡大するなど、統一の利益を共有できると認識してもらうことが重要だ。これが好機といえるだろう」
洪 「同感だ。特に北韓が崩壊間近になれば、中国は支えきれずに韓国に歩み寄り、北を突き放すだろう。そうなれば統一は早まると思う」
―ソフトランディングの統一を想定するのに必要な前提は。
金 「統一費用の負担で若い世代が苦労することになるという認識が広がっている。政府が北韓の急変事態に備えているかも疑問だ。周辺国は現状維持を望んでいるかもしれない。しかし当事者である我々は違う。なにがあっても統一はするという明確な意志が必要だ。その目標を内外に示すべきだ。6・25戦争での荒廃も乗り越えたではないか。短期的には大変だが、統一は国家的慶事になる」
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