秘密口座追及の動きに北朝鮮当局は敏感に反応している。追及が外貨獲得の手段である金融取引の停止に発展することを恐れているためだ。
北朝鮮の反応が顕著に現れたのが、05年9月に米当局のブラックリストに載せられたマカオのBDA口座の凍結だった。凍結された口座は、朝鮮労働党39号室に関わるものと見られている。北が金融制裁を受けた2000万ドルの凍結解除にこだわり、6カ国協議に協力的な姿勢を示したのは、BDAを拠点とする金融取引基盤が失われることを恐れたためだ。
06年4月13日付ワシントン・タイムズによれば、「金正日がスイスの秘密番号口座に置いているとみられる40億ドルについて調査を 行うのか」と質問されたヒル米国務次官補は、秘密裏に核活動を行おうとする国があれば「その国の財源が吟味されるというのは公平公明なことだろう」と答えた。
秘密口座の行方を追っている加藤健代表は「ところが、北朝鮮は10日もしないうちにスイス政府に対して秘密口座の調査に応じるよう正式に要請した」と言う。同時にスイスの北朝鮮大使館は「共和国の評価をおとしめる謀略だ」と非難する声明文を韓国の通信社、連合ニュースに送りつけた。「スイス政府が銀行機密保護を理由に調査に応じないことを見越した上でのスタンドプレーで、北当局のあわてぶりを示すもの」と加藤さんはみる。
北朝鮮と国交を持つ国が多いEUは昨年12月22日の環境相理事会で国連安保理決議1874とは別に独自の対北制裁措置として、金正日の義弟、張成沢国防委員や金英春国防相らを渡航禁止や資産凍結の対象に指定した。外貨を管理する党39号室金東雲室長らも含まれたという。これは、金正日だけでなく北朝鮮の先軍統治グループをEUが制裁の対象として俎上に載せたことを意味する。
米国の元対北筋の影
金正日の海外資金は秘密口座にあるだけではない。英国系のファンドも、鉱山利権などを目当てに資金を集めている。
英国系ファンド「アングロ―シノ・キャピタル」は05年9月、5000万ドル規模の「朝鮮(Chosun)開発投資ファンド」を設立した。北朝鮮内の鉱山・エネルギー開発などに投資する同ファンドは翌年5月、1億ドル規模に拡大し、英国の金融当局である金融サービス機構(FSA)から営業認可を取得した。
ファンドの顧問には米国務省で北朝鮮問題を担当していたリン・ターク氏が就任している。ターク氏は、94年に米国初の訪朝団を率いて平壌を訪れた。また同ファンドの投資顧問会社であるコリョ・アジアのコリン・マカスキル会長は、07年2月にBDAに対する米国の金融制裁を解除させた人物だ。
コリョ・アジアは「首領系企業」と外資の決済のため、北朝鮮に本社を持つ大同クレジット銀行を傘下に収め、実質、平壌を租税回避地として、正体を知られたくない投資家を集めているといわれる。英国は01年に北朝鮮と国交を回復し、平壌に大使館を開設しており、ロンドンに本拠を構えるヘッジファンド「ファビエン・ピクテ」や「フェニックス・コマーシャル・ベンチャーズ」も北朝鮮での合弁事業を行っている。
彼らが集めた資金は、開発費として使われるだけでなく、開発権を与える金正日への「袖の下」という性格もある。こうして金正日は海外に資金を蓄えているのだ。
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